かどいの『I'm in Rock!-Ⅱ』

ある文筆業者(分泌業者ではない)の生存証明。基本的に毎日更新。

今さら萩原健一を懐かしむ

 本当なんだかどうだか知らないが、こんな話がある――
 あの『太陽にほえろ!』(一時代を築いた刑事ドラマ)が始まる時、萩原健一は“主人公”となる「マカロニ刑事」として出演することが決まっていた。
 このドラマは刑事ドラマとはいえ単純に事件を追うものではなく、刑事になった若者がさまざまなことを学びながら成長するという一種の青春ドラマでもあり、従ってショーケンのポジションは、今風で尖った、一課の中心ともいえるものだった。
 それをイメージ的に明確にするため、マカロニウェスタン映画(=イタリア製でアメリカの開拓時代を舞台にした映画群)かぶれで、警察署にもマカロニウェスタンの登場人物のようないでたちで登場する、という設定があった。
 その格好を見た先輩刑事から「なんだおまえマカロニウェスタンみたいな格好しやがって。てめえは今日からマカロニだ」という“命名”を受けるという流れ。
 ところが。
 撮影開始日、現場に現れたショーケンは、ぜんっぜんマカロニウェスタンの格好をしていなかったという。
 しかしシナリオは変えられずそのまま進めることになり、とりあえずディレクターがアタマを抱えた――

「なるほどな!」と「……なぜ?」がいっぱいごちゃまぜになった話だ。
 なるほどの方は「だよなー! あの時のショーケンのかっこ、ぜんぜんマカロニじゃねえもんな!」というもの。なのにゴリさん(だったかなあ先輩刑事)に「マカロニ」とか言われて、違和感バリあったし。てゆかシリーズ途中から見たら、なんでマカロニって呼ばれてんの? あのナリでマカロニグラタンが好きだから? とか思う。それぐらいマカロニ刑事というあだ名に据わりの悪さがあった。まるで合っていなかった。
 なぜ? の方の代表格は「え? テレビ局ってドラマ撮る時に衣装の準備しねえの?」。
 そんな重要な設定だったら、準備しとけよマカロニ一式。それともその時、ショーケン側から「衣装は自前でやるから」とかの申出があったのかなあ。
 まさかショーケンが事前に脚本を読んでいなかったなんて話はないよねえ?
 それともまさかショーケンマカロニウェスタン知らなかったとか? いやーそれはないだろうなあさすがになあ。(ところで本場アメリカではスパゲティウェスタンっていうらしいぜ)

 あるいは、と考える。
 テレビ局の意向としては、「今どきのヤング」がそのまま刑事になったら、というイフをモチーフにしたかったのだろう。
 一方、今どきのヤング代表に選ばれたショーケンがそれをガチで受け止めたとして、その上で脚本を読み、「マカロニウェスタンかぶれぇ? いねーよそんな若いやつぁ。今どきマカロニウェスタンで喜んでんのはガキとおっさんぐらいのもんだろうが」と思ったのかもしれない。
 こんな脚本蹴飛ばして本当のヤングってもんを見せてやる、って意識があったのかもしれない、ということ。それだけショーケンは、今どきのヤングを本気で再現しようとしていたのかもしれない。ああ“しれない”だらけで文章がきもち悪い。

 そんな第一話『マカロニ刑事登場!』では、拳銃に憧れ拳銃を持ちたくて仕方がなくて刑事になったというマカロニ、拳銃が正義を執行するという理念をもっていたマカロニの、根本的な誤謬の露呈がテーマになっていた……と記憶する。(そして後継者のジーパンは、大の拳銃嫌いという設定になっていた。ずいぶん両極端に振るもんだね)
 そういう点では、確かにラストは必ず銃撃戦で飾られるマカロニウェスタンに対する、ひとつのアティテュードが織り込まれていたと思うし、だからこそマカロニという命名は重要だったのだろうとも思う。てゆかこーゆうの書くつもりならTSUTAYAでもなんでも行ってきっちり確認してこい俺。あーでも面倒だからー……(いろいろ失格)
 とにかく、シナリオそのものが悪いわけではなかった。
 だが、ショーケンはマカロニをアタマっから否定していた模様。撮影初回はアウトでも、マカロニを実行するつもりなら、あとの収録からそういう衣装にすればいいわけだからね。
 もしこの話、初日には準備がなかったという話が事実だったなら、ね。

 事実だったとして、それが意図的なものだったのか単純なポカだったのか、意図的なものだったとしてそこに深い意味があったのかどうか、あったならどういうものだったのか、ポカだったならなぜそんな致命的なことが起きて、なぜそれをカバーする手だてを講じなかったのかと、疑問は山ほどある。
 ただ『太陽にほえろ!』は以後何百回も続く大ヒットシリーズになったし、松田優作を初め個性的な若手が次々と登場するオーディション的作品にもなった。その礎を築いたのは、間違いなくショーケンのマカロニだ。ぜんぜんマカロニに見えないマカロニだ。
 真偽不明の謎伝説の十や二十、あっていい。いや、あってほしい。

 どっちにしても、ジープを駆って警察署に出勤する(そのジープも自前だったというウワサ)ショーケンは、本当に型破りだったと思うし、当時小学生のガキが見ても声が出るほどカッコよくもあった。シビれた。
 そういう記憶をもたせてくれたショーケンには、感謝している。
 ありがとう。
 おつかれさまでした。