かどいの『I'm in Rock!-Ⅱ』

ある文筆業者(分泌業者ではない)の生存証明。基本的に毎日更新。

テレ東『午後のロードショー』はやっぱりすごい

 以前から知人の間でしばしば話題になる、テレ東『午後のロードショー』。
 基本的にはすでにTV公開も終わってしばらく経った映画、ということは制作から確実に二年は過ぎた映画に、二時間にもわたる時間を供するという、大変に豪気な枠です。
 じゃあヤル気ナシ消化試合的なずるずる時間なのかというと、これがとんでもなく違っていて。
 むしろ、ヤル気と遊び心に満ちた、映画好きの無法地帯(と書いて“ぱらいそ”と読む)。
 なにしろ、番宣CMまでちゃんと作っちゃって、あっちこっちに散りばめてるぐらいですからね。しかもそのCMが、どれもこれも気合のはいった力作ばかり。映像自体はもちろん映画からの切り出しで、新たに録った部分なんか皆無といっていいわけですが、書き下ろしと思われる映画や企画のキャッチコピーは秀逸。作品個々の核心をがっちりと捉えつつ、その上それを非優等生的角度から大胆に表現したものの連打。
 放映する映画の選択に漂う、濃厚なC級感も実に味わい深い。
 緩い昼下がりには、かなり贅沢な番組なのです。

 その午ローで先週、またしても個人的なヒットが誕生。
 先週は、「刑事(デカ)盛り!!!」と題して、ポリスアクション系の映画を特集していました。放映されたのは、『ショウタイム』(デ・ニーロとエディ・マーフィのやつ)と『リーサルウェポン2』に『ボーン・コレクター』、まあこの辺だけを見てもかなり“それってなんか違くない? 刑事ものっていうより×××な感じが……”という印象があるわけですが、初日一発めがなんとまあ『ロボコップ』だったんですよ『ロボコップ』。
 これ普段は刑事ものとかクライムアクションっていうより、SFアクションとして語られますよね。むしろ『ターミネーター』や、近作だと『アイ・ロボット』とかと同じカテゴライズ。

ロボコップ』。
 もう四半世紀近くも前の映画ゆえ、ご存知ない方もいらっしゃるかもしれませんが、リアルタイムで観た自分は、すっげえぇぇ感動した映画です。
 ストーリーをかいつまんでいえば、殉職した警官の脳が開発中だった機械の体に移植されて無敵のスーパー警官が誕生し、街に巣くう悪党どもを法に則って叩き潰す……というもの。
 一見シンプルなヒーローものですが、やはり話は一筋縄ではありません。そもそもの舞台設定として、慢性の不況で街の運営予算が足らないため、自治体は警察組織の運営を民間に委託している……ってのがあり、ロボコップの開発をしたのが警察運営を預かっている民間企業で、その会社の権力争いが警察運営にも影響し、さらにロボコップの機能にも陰謀がこっそり組み込まれていて……ってな具合。
 とにかく作りがていねいで、ちゃんと“人間”というものも描かれています。初めて観た時には「エイトマンもマジで作ればここまでいくのかッ!!」と思って拳を握りしめたものです。ストーリーテリングも手堅く、映像の見せ方も凝っていて、ラストシーンの一言には思わずガッツポーズが出るくらい。
 ただ、暴力・残虐描写にかなりキツい部分があるので、誰にでもお勧めできる作品とはいえません、念のため。

 ねぇ。
 これどう考えても、ポリスアクションじゃないでしょ。SFでしょ。アシモフの『鋼鉄都市』とか、平井和正の『サイボーグ・ブルース』の方が、ともだちっぽい。
 ところが、午ローのスタッフは、これを「刑事盛り!!!」のトップバッターにもってきたわけですよ。刑事ドラマの筆頭に数えちゃったわけですよ。
 すげえ思い切りのよさだなあw

 もしもね、普通に考えて「刑事盛り!!!」だったら、たとえばハックマンの『フレンチ・コネクション』1・2とかね。マックイーンの『ブリット』とかね。イーストウッドの『ダーティハリー』(ただし1と2限定、3以降は却下)とかね。それで古すぎるなら、せめてウイリス『ダイハード』とかね。そういう映画を出すべきだろう、と。
 そりゃ確かに『ロボコップ』は警察&犯罪モノですけどさ。なんか違くね? と。

 でも、じゃあ『ロボコップ』がポリスアクション足り得ないのかというと、それは違うわけで。やっぱりあれは、確かにポリスアクションなんですよ。ただ、それ以外の要素の方が、遥かに大きく感じられるだけで。
 近未来SF設定とか、機械と人の関わり方とか、機械と人の境目とかから、小説になったエイトマン、ただしタイトルはエイトマンではなく『サイボーグ・ブルース』に使われていた形容を借りれば“鉄の棺桶に閉じ込められた魂”の問題etc.……単にポリスアクションという枠を越え、もはや哲学の域にすら入り込みかねない問いかけを、エンタテインメントの枠の中でしっかりと表現した作品を、単にポリスアクションと呼んでもいいのか、って感じ。
(もっともロボコップという存在自体は、その姿のかっこよさも含めて一人歩きを始め、続編・続々編はもちろんTVシリーズにアニメまで作られたらしく、すっかり一介のヒーローになり果ててしまったんですが)
 よーするに、ポリスアクションの枠に簡単に収まる作品じゃない、と。
 でもテレ東午ロースタッフは、「え? いーじゃんポリスアクションで。だって、正義のヒーローが法と現実のギャップに苦しみつつ、最終的に悪をぶっ潰す映画だもん」という具合に、『ロボコップ』を「刑事盛り!!!」に入れちゃったんですよ。
 これを快挙といわずなんというか。

 逆にいえば、ポリスアクションとしては色物であった『ロボコップ』を、ポリスアクションの正統派として認めたってことになります。これはやはり、すごいと思うんですよ。「だってロボットだろ?(いや本当はサイボーグですがw)」「でもSFだろ?」的な反論は聞かねぇぜ、的な思い切りのよさ。「これポリスアクションなんだよ。なんでそこんとこがわからねえの?」という。
 ついでにいえば「刑事盛り!!!」企画中、最も一般的テーマ解釈に近そうな『リーサルウェポン』を、正編ではなく『2』で出してきたところにも味わい深いものがあります。自殺志願のヤンデレ刑事が事件を通じて改めて生への希望に触れる正編ではなく、仲間とのバディ意識を高め、むしろ生を大切にするゆえの捨て身の行動に至る2を選んだってとこにね。(すげえカタルシスはあるけど、現実的にはそれヤバいだろというエンディングも含めてw)
 確かに作品の核心を鷲掴みにしてます。
 そして、斜め上をイッてます。

 相変わらず、午ロー枠から目が離せません。
 なお今日は『スピーシーズXX』という、B級テイスト盛り盛りな侵略ホラー映画をやってました。明日はシュワちゃんコラテラル・ダメージ』で明後日は『ザ・コア』(これがまた予算大枚はたいてあっちこっち漏れまくりなダメダメ爆笑SFなんだwww)という具合で、今週は特に統一企画はないようです。


※なお、コップとは警官のことです。警官の身分証明バッジが銅=copper=copでできていたことから、初めは隠語として生まれ、次第に一般に浸透した言い方です。ただしこれ、決してお行儀のよい言い方ではありません。場面によっては、中指立てに匹敵する場合もあったことばだといいます。普通に“警官”と言いたいなら police officer、あるいは単に officer を使った方が無難。というわけで、ロボコップを直訳するなら、“からくりマッポ”が適当なんじゃないかと思います。
 そういえば、『ビバリーヒルズ・コップ』なんて映画もありましたが、個人的にはあのタイトル、ビバリーヒルズというセレブげな地名と、コップという卑俗なことばの組み合わせで、それ自体が違和感をもつギャグになっていたと思ってます。和風に翻案すれば、「白金(しろがね)デカ」とか「芦屋ポリ」とかいう感じですかね。