かどいの『I'm in Rock!-Ⅱ』

ある文筆業者(分泌業者ではない)の生存証明。基本的に毎日更新。

2013-10-01から1ヶ月間の記事一覧

【#4 僕のこと。】-01

(承前)“彼”が現れたのは、夕方になってからのことだった。 いつものように登校し、授業を受け、放課後には図書室に寄って――そこにはもう上級生の女子の姿はなかったけれど――、少し本を読んだ後に、美春が耳打ちしてきた。 「来たよ、担当さん。今、外で待…

【#3 美春のこと。】-03

(承前) さすがに二日連続でズル休みというわけにはいかないし、それにもう学校へ行かない理由はない。翌日僕は、普通に制服に着替え、普通に食事をして、家を出た。 その時に感じた気分。それを表すことばも、ぼくはまだ知らなかった。 「……美春!」 思わ…

【#3 美春のこと。】-02

(承前)(でも……本当は、誰なんだろう。僕にとって大事なはずの、誰がいったい?) 考えれば考えるほど、気分が滅入ってくる。 顔をあげてみると、美春がまだ道に立っていた。 でもその顔を見た時、僕はどきりとした。 暗く沈んでいる。さっきの比じゃない…

【#3 美春のこと。】-01

(承前)「忘れ物ない?」 「ないよ」 「ちゃんと生徒手帳持った?」 「いつも制服の内ポケットに入れてるから、忘れっこない」 「シャーペンの芯、ちゃんと補充した?」 「してるってば。うっさいなぁもう」 僕は少しうんざりしながら、でもなんとなくいい…

【#2 図書室のこと。】-05

(承前)「何度も聞くけどさ、美春って何者?」 答えは期待していなかったけれど、とにかく僕は尋ねてみた。僕はそれをどうしても知りたい、聞きたいんだ。そうしなければ落ち着かない。 「ミハルはミハルだよ」 彼女は案の定の答えを返してきた。ただ、そこ…

【#2 図書室のこと。】-04

(承前)「おっかしいなー」 また彼女が言う。その声は、悔しいけれど耳に心地よい、透き通ったいい声だった。僕は、“鈴を転がすような、っていうのは、こういう声のことをいうのかな”と思った。本の中に見つけた形容だけれど、本当にそういう声を聞いたこと…

【#2 図書室のこと。】-03

(承前) なにはともあれ、彼女は、確かに、いた。 でも彼女は、どうやら普通の相手じゃなかったらしい。 それがわかって僕は、でも、なぜか安心した気分になっていた。 それは、彼女が――というより、得体の知れなかったなにかが、彼女と呼べるらしいものだ…

【#2 図書室のこと。】-02

(承前) それから一週間ほどたった頃。 その日も僕は当然、図書室に寄っていた。 あれ以来僕は、図書室に入ったらまず窓から校門を確かめ、出る時にもまた確かめるようにしていた。 黒い人影に初めて気づいたあの日、校門を通って外に出る時に、僕はちょっ…

【#2 図書室のこと。】-01

(承前) その日も僕は、図書室で本を物色していた。 授業が済んでも真っ直ぐ家に帰らず、学校の二階にある図書室でしばらく本を読んでから帰ることが、いつの間にか僕の習慣になっていた。 もともとは、ナカニシを保つために始めた読書だった。でも今は、自…

【#1 伯父さんのこと、お祖父さんのこと、そしてナカニシのこと。】-03

(承前)“そうしょっちゅうなにかが無くなってるんじゃ、世の中不便すぎる” そのことば――ナカニシのことばは、僕にとって、かなり印象的なものだった。 なるほど、と思ったんだ。 そう、無くなる一方じゃ不便だ。というより、世の中が成立しない。ただ無くな…

【#1 伯父さんのこと、お祖父さんのこと、そしてナカニシのこと。】-02

(承前)「……っていう話、おまえ、信じてくれるかなあ」 僕はナカニシに尋ねた。 ナカニシは、ふーん、と言って、さっきから続けてることを相変わらず続けていた。 といってもナカニシは、ものすごく特別なことをしているわけじゃない。 ナカニシは、ルーズ…

【#1 伯父さんのこと、お祖父さんのこと、そしてナカニシのこと。】-01

最初に“あれ、おかしいな?”と思ったのは、伯父さんが死んだ時だった。 一年半ぐらい前のことだ。伯父さん――母さんの兄さんは、その数日前、僕への中学入学祝いだと言って、例によって妙なものを持ってきてくれたばかりだった。 「こいつはなぁ昌史。アイス…