かどいの『I'm in Rock!-Ⅱ』

ある文筆業者(分泌業者ではない)の生存証明。基本的に毎日更新。

2013-11-01から1ヶ月間の記事一覧

【Ringo the Wight/#2-10】

(承前)「そして、エイミがリクに相談した理由。これもそこから繋がっているんだ。……いい? よく聞いて。リクは、ヴィレンのお眼鏡に適っていたんだ。この先、チームのリーダーになるのは、リクのはずだったんだよ」 「なんだってぇ!?」 思わず大声を出して…

【Ringo the Wight/#2-09】

(承前) それは、かなり遠大な計画だったのかもしれない。 十二年前の、予想外の敗退。その後のエリアの、つけいる隙のない体制。ヤクザにとってそれは、かなり看板に響く失態だった。 もちろん、当時の方面担当者たちには、厳重な罰が与えられた。彼らの世…

【Ringo the Wight/#2-08】

(承前) ヴィレンががっくりと肩を落とし、本部の奥の部屋の椅子に、ひとりで座っていた。 膝の間に頭が入ってしまいそうなほどに俯いて、リンゴーたちが入っていっても、ぴくりとも動かない。 「ヴィレン……」 リクが声をかけると、ヴィレンはゆっくりと顔…

【Ringo the Wight/#2-07】

(承前)「すげえぜリンゴー!」 出会ってから十日めの朝。 リクは、相変わらずリクの部屋に寝泊まりしているリンゴーに、半ば興奮気味に言った。 いや、このところ数日、リクは興奮しっ放しといっていい。チームの連合を目指した最初の三日間には、まだ緊張…

【Ringo the Wight/#2-06】

(承前) たったの三日で、ヴィレンたちの行動は成果を得た。旧来の十七チームはもちろん、残りの新興五チームも、順次ヴィレンたちの連合案に従ったのだ。 特に、旧来の十七チームの従い方には、異様なほどの素直さがあった。これは考えるまでもなく、事前…

【Ringo the Wight/#2-05】

(承前)「だから俺たちは、世間の連中にことさらに嫌われてる。厄病神扱いってところだな」 話すヴィレンを、リンゴーはじっと見ている。その目の奥に、さっき病院でクラークに向けたのに似た、探るような色合いがある。 「……そういうことが、あったんだ………

【Ringo the Wight/#2-04】

(承前) そこには、滅茶苦茶な線で構成された幾つものぐしゃぐしゃの図形、文字のつもりらしいヨレた線の行列、そしてそれら全部を押し潰すような何重もの大きな×印が書かれていた。 「……典型的な錯乱者の作品といったところだなあ。ただ、精神症の患者のも…

【Ringo the Wight/#2-03】

(承前)「さて……」 リクの部屋に落ちついて、まずリンゴーが口を開いた。 「とりあえず俺のことはわかったろうから、次はなにかな。やっぱりここは順を追って、十二年前の話、ってのをするべきかな?」 言いながらリンゴーは、丸めて運んできた革のジャケッ…

【Ringo the Wight/#2-02】

(承前) リクは、再び声を小さくしてしゃべり始めた。 「……ごめん。でも、とにかく、訊きたいことが山ほどあるんだ。なあ、教えてくれないかリンゴー」 リンゴーが、ふむ、と声に出し、考え込むような目つきになった時だ。 「よお患者。具合は良さそうだな…

【Ringo the Wight/#2-01】

(承前) ドアの上に灯っていた“手術中”の赤い文字が、ふっと消えた。 その文字看板をじっと見つめていたリクが、背もたれのない廊下の長椅子から、バネ仕掛けの人形のような勢いで立ち上がった。 リクの表情が険しい。いや、表情だけではなく、まとっている…

【Ringo the Wight/#1-12】

(承前)「どうすんだ、どうするつもりなんだよ! あいつ……俺の、いや俺たちのために、クソ虫どもを追い散らそうとしてくれたあいつを撃っちまうなんて! ヴィレン!」 かがみ込み、ヴィレンの襟首を両手で掴んで揺さぶりながら、リクが怒鳴る。 ヴィレンは…

【Ringo the Wight/#1-11】

(承前)「ぉおぉらァ!」 大声を挙げて、格下がリンゴーに飛びかかる。片刃のナイフの、ブレードは上向き。刺さった後で刃が微妙に滑り、内臓に大きな損傷を与える握り方だ。そのままナイフの先端が、真っ直ぐリンゴーのみぞおちに突き出される――。 リクは…

【Ringo the Wight/#1-10】

(承前) リンゴーは首を斜めに傾げ、ヴィレンたちを見ている。その目が、恐ろしく冷たい。 音もたてず、いつの間にあんな場所まで移動したんだろう――リクが思う間もなく、ヤクザのひとりが野太い声で誰何した。 「なんだぁ、てめえ」 堂に入った恫喝だった…

【Ringo the Wight/#1-09】

(承前) 翌日の夜、指定された時刻、指定された場所。リクはちゃんと、そこにいた。 TTB−13ビルの食料倉庫フロア。そこは食料品の倉庫だけに、エアコンディショニングががっちり効いている。いつもの薄手のジャケットを羽織っているだけでは、いささかな…

【Ringo the Wight/#1-08】

(承前)「よう。遅かったじゃあないかあ」 夜中に戻ったリクを出迎えたのは、リンゴーの明るい声だった。 戻っていた――。 それに妙な安堵を覚え、それと同時に気持ちを見透かされているような苛立ちも覚えて、リクはただ「ああ」とだけ答えた。 「今日もカ…

【Ringo the Wight/#1-07】

(承前) 翌朝リクが目を覚ました時には、リンゴーはもう部屋にいなかった。やっぱ逃げたかと思いながら食堂に入ってみると、テーブルの上にメモがある。 手にとって見るとそれは、昨日リンゴーが後生大事に抱きしめていた地図の裏側だった。『おはよう、我…

【Ringo the Wight/#1-06】

(承前) リクが俯き、小さなため息をついた時に、リンゴーはようやく口を開いた。 「……なるほどね。いろいろと、かなりわかってきた気がするよ。そういうことなら、確かに探らなきゃならないんだろうねえ」 「ま、そういうことさ」 「じゃ、次の質問、いい…

【Ringo the Wight/#1-05】

(承前)「なるほど」 リンゴーは、さっきの猿をさも珍しげに両手でくるくるもてあそびながら、言った。 「リクの兄貴分の――なんていったっけ、ローグだっけ?」 「ヴィレンだよ。全然違うじゃねえか」 「ごめん。会ったことのない男の名前を覚えるのは苦手…

【Ringo the Wight/#1-04】

(承前) 確かにそこは、見事に少年的な部屋といえた。 食堂にしているらしいこの部屋には、今リンゴーたちが着いているテーブルセットの他、これもまたどこかで拾ってきたような背の低い物置棚が片隅にひとつあるきりだ。壁は剥き出しのままで、飾ったり磨…

【Ringo the Wight/#1-03】

(承前)「……しかし、あんた……。本当に飢えてたんだなあ」 リクは呆気にとられて男を見ていた。 小汚い丸テーブルを挟んで、リクと男は向かい合って座っていた。このテーブルはだいぶ前、経営者が夜逃げしたらしい会社から拾ってきたものだ。 男の前には、パ…

【Ringo the Wight/#1-02】

(承前) 男は、自分の右手首を確かめた瞬間、遠く離れたリクにもわかるほどに、目と口をぱかっと大きく開けた。その素っ頓狂な顔を一秒ほど維持した後、男は音がしそうな勢いで口だけを閉じ、ビシッと正面を向き直すなり、再びせっせと歩き始めた。 男が、…

【Ringo the Wight/#1-01】

明るい場所には人が集まる。人が集まれば、そこは街になる。街には必ず、闇が生まれる。そして闇は、さらに多くの人を呼び寄せる。 この街もまた、その足元に、そういう闇をしっかり育んでいた。 この街――典型的な地球型惑星の、これまた典型的な開発都市と…

【いいわけ的あとがきと次回予告のこと。】

えー、そんなわけで、およそ半月に渡ってアップし続けた『witness』ですが。 どうよ、この尻切れトンボ具合。 オレはあきれましたよ自分で自分に。 ホントだったら、最終回直前分(『#4 僕のこと。』-07)のあとが肝心なんだよ。そこまで延々と設定説明し…

【#4 僕のこと。】-08

(承前) 以上で、僕が中学二年生だった頃の秋に経験した、ちょっとした物語は終わりだ。 実際にはその後、少なからずの事々が起きている。たとえば僕は、どうやって東京タワーから降りたのか。なにしろ僕には、肉体がある。エレベーターが動き出してくれな…

【#4 僕のこと。】-07

(承前)「さあ、外を見に来たまえ」 “伝の3”が僕を振り返り、言った。 僕は、まだはっきりとしない頭を少し振って、立ち上がった。 あの後、僕たちは笑いに笑って、いい加減に疲れ果てた頃には、すっかりぐったりしてしまった。そして僕はどうやら、そのま…

【#4 僕のこと。】-06

(承前) 騙されていたような気がする。いや、僕が勝手に考えすぎていたのかもしれない。幻を求めていたのかもしれない。すべては理詰めで理解できるはずだ、という幻を。 今僕は、きっと間違いなく正しいことに触れている。正しい? いや、それも間違いだろ…

【#4 僕のこと。】-05

(承前)「……というわけだよ。理解は及んだかね?」 田野さんがそう結んだ時、僕はどう答えていいかわからず、呆然としていた。 田野さんが話すうちに、タワーの特別展望台はもう閉館していた。それからもうずいぶん時間が経って、周囲に人影はなくなってい…

【#4 僕のこと。】-04

(承前) エレベーターはやがて動き出し、あっという間に150メートルを昇りきって、展望台に着いた。そこから中をぐるっと歩き、階段を登って、特別展望台へ向かうエレベーターに乗り継ぐ。 さっきと同じようにエレベーターにこっそりと滑り込み、僕たち…

【#4 僕のこと。】-03

(承前) 僕たちは駅まで歩いて行き、電車に乗った。ずっと風が吹いていたけれど、美春と田野さんが両横にいてくれたから、あまり寒い思いはしないで済んだ。 道々、こんな時間に遠くへ出かけたら両親が心配するかも、と相談した。すると田野さんは、それは…

【#4 僕のこと。】-02

(承前) そうだ。僕はそれを知っていた。誰かが滅びると、世界がひとつ滅びている。 伯父さんが亡くなった時はどうだったか。 僕は、それを目指す目指さないは別として、ひとつの成功の例、充実の見本が無くなったと思ったのだ。あの時僕は、それにかなりの…