かどいの『I'm in Rock!-Ⅱ』

ある文筆業者(分泌業者ではない)の生存証明。基本的に毎日更新。

2014-02-01から1ヶ月間の記事一覧

魔少女・由衣 闇狩り【#6】闇狩り−03

(承前) その若者の姿が、改めてはっきりと見えた。 派手なシャツの裾をルーズなズボンからはみ出させ、首と手首には太い金鎖を巻きつけている。短めに刈った髪は根元から色を抜かれて、おもちゃのような黄色に変えられている。 見るからに、という風体では…

魔少女・由衣 闇狩り【#6】闇狩り−02

(承前)「んっ!?」 午後七時にもなろうという頃、だろうか。今日も空振りかと思った時に、珍しく美弥が喉から声を漏らして瞼を開いた。 由衣も口許を引き締めた。 「……聞こえたね?」 問い掛ける美弥に、由衣はこっくりと頷いた。 そう、確かに、聞こえた。…

魔少女・由衣 闇狩り【#6】闇狩り−01

(承前) 由衣が美弥とともにドーナツ屋に通い始めて、もう三日めになる。 今日もふたりはコーヒーだけをテーブルに乗せ、言葉も交わさずに、ただひたすら“波長”を探していた。 由衣はいつも通りの、白のポロとキュロット姿。美弥もまたいつも通りの、黒い、…

魔少女・由衣 闇狩り【#5】追う者たち〔2〕-04

(承前)「あれを見たら、誰だって思う。こんなことをした野郎は野放しにしちゃおけねえ、許せやしねえ、ってな。ましてやそのガイシャが、あの由衣……真面目で素直って評判の天宮由衣ともなりゃあ」 直樹は震えながら、かすれた声で呟いた。 「……許せない………

魔少女・由衣 闇狩り【#5】追う者たち〔2〕-03

(承前) 二十数分の後には、回転燈をつけたパトカーが浅見家に集まり、ほんの一週間前に天宮家で見られたのとそっくりな光景が、再び展開されていた。 鑑識の制服でやって来た大谷が庭の中心に立ち、検分の陣頭指揮を採っている。大谷の横には中屋敷と、顔…

魔少女・由衣 闇狩り【#5】追う者たち〔2〕-02

(承前) 昔からの町並みではなく、最近になってから開発が進んだらしいその一画は、道幅もそこそこ広く、また道自体が几帳面な直角で構成されている。目指す浅見家は、その新興住宅地のうちでは、比較的古い区域にあった。 路上に車を停め、二人は表札を確…

魔少女・由衣 闇狩り【#5】追う者たち〔2〕-01

(承前) パーテーションで仕切られた“天宮家惨殺事件捜査本部”の囲みの中。 本部長の中屋敷警部は、今日も苦虫を噛み潰したような顔で煙草を吹かしながら、外回りをした刑事たちが上げた報告書を読んでいた。机上の灰皿には、根元近くまで吸い尽くされ乱暴…

魔少女・由衣 闇狩り【#4】邂逅−08

(承前) それは鮮やかな変貌だった。 特に仰々しく時間をかけることもなく、わずかに美弥の全身が、陽炎に包まれたように揺らいだ。まとっていた服が、ぱさぱさと軽い音を立てて落ちたと思った時には、そこには美弥でない、別のものがいた。 由衣は息を飲ん…

魔少女・由衣 闇狩り【#4】邂逅−07

(承前) その姿は、本当にくっきりとしていた。 かなりの距離がある。本来ならぼんやりとしか見えない距離のはずだ。それなのに、動作のひとつひとつが、それこそ指先の運びまでがはっきり見える。色のコントラストも、スポットライトが当てられてでもいる…

魔少女・由衣 闇狩り【#4】邂逅−06

(承前) あの街──猥雑で危険な流れ者の街にふたりが着いたのは、昼少し前のことだ。 旧式の洗濯機は、意外なほど洗濯に時間がかかった。おまけに脱水槽が不調で、仕上がったはずの服を手で絞り直さなければならなかった。 それは、誠実だが不器用な年嵩の男…

魔少女・由衣 闇狩り【#4】邂逅−05

(承前)「さぁて、今日もあの街に出掛けるか」 カーテン越しに朝の光が入り込んでくる頃。 布団から抜け出した美弥は、伸びをひとつして言った。 その声に由衣は目を覚ました。 (あれ? ここ、どこだっけ……。この声、誰だっけ) 昨夜はずいぶん久しぶりに…

魔少女・由衣 闇狩り【#4】邂逅−04

(承前) 質素な部屋だった。 いや、質素という言葉は当てはまらないのかもしれない。求めるものはあれど自制し、極力省いた様子が質素であるなら、この部屋は明らかに違う。この部屋には、そもそも必要がないから物がないのだ。 殺風景というのか、それとも…

魔少女・由衣 闇狩り【#4】邂逅−03

(承前) 男たちの顔が、歪んでいた。 屈曲率の違う何枚かのレンズを組み合わせ、わざとバランスを崩して被写体を捉えるカメラがあるなら、それに映された顔はこうなるのだろう。どの顔にも、いくつかの傷が見えた。その傷からは、おぞましい暗色をした、肉…

魔少女・由衣 闇狩り【#4】邂逅−02

(承前)(別の所へ逃げようか。人が全然いないような山奥とか。いっそ、その方がいいのかもしれないな) 次第に活気を増す街を眺めながら、由衣が、そんなことを考えるともなく考えていた時だ。 『いやああぁっ!! やめて、やめてよぉっ』 若い女の悲鳴が聞…

1号タン逝く…。

合掌。

魔少女・由衣 闇狩り【#4】邂逅−01

(承前) それは、家中に響くどしんばたんという音とともに、突然、居間に現れたのだった。 目を醒まして撥ね起き、ゴルフクラブを握って寝室から出た父親は、そこに醜悪な化け物を見つけた。同様に目を醒ました弟と母親は、父の肩越しにその異形を見た。 獣…

魔少女・由衣 闇狩り【#3】追う者たち〔1〕-03

(承前)「おい森沢。お前、これどう思うよ」 普段は取り調べに使われる狭い一室で、中屋敷と森沢、大谷に専従捜査員が三人、額を突き合わせるようにして、机の上で開かれたファイルを覗き込んでいた。 中屋敷は、そこに貼りつけられた一枚の写真を指さして…

魔少女・由衣 闇狩り【#3】追う者たち〔1〕-02

(承前)「ところで、中屋敷警部」 鑑識官が問う。 「なんだよ」 「今、“連中”とおっしゃいましたが」 「そらぁそうだろうよ。こんだけのゴトが、一人でやらかせるかよ」 「……それはそうですが」 「ぼ、僕も、こちらの鑑識さんと同じ疑問があります」 いつの…

魔少女・由衣 闇狩り【#3】追う者たち〔1〕-01

(承前) 赤い回転燈を載せた車が、何台もその家の前に停まっていた。 門前の道路には黄と黒に毒々しく色分けされたテープが張られ、周囲に集まってきた人々の侵入を阻んでいる。そのテープの内外を、冴えない色の制服を着た何人もの男たちが、ひっきりなし…

魔少女・由衣 闇狩り【#2】逃亡−05

(承前) 男がろれつの回らない口調で、言った。 「化けたんだ……俺に復讐するために、お前、化けて出てきたんだなっ」 だが由衣自身も怯えていた。ひたすら驚き、恐れていた。 やってしまった。“能力”を使ってしまった。自分が、やったのだ。 由衣は震えてい…

魔少女・由衣 闇狩り【#2】逃亡−04

(承前) 車は古いのか、かなり揺れた。だが男の運転はていねいで、それを充分にカバーしていた。男の、少し時代遅れな生真面目さや不器用な優しさが、そのまま表れたような運転だった。 男の寡黙さは、その理由を思う時、決して居心地のいいものではなかっ…

魔少女・由衣 闇狩り【#2】逃亡−03

(承前) 白い軽トラックだ。 幌の張られていない荷台には、巻き上げられて丸太のようになった大きなカンバスが、ごろりと投げられている。前後両端に近い場所を縄で括られたそれは、巻き上げ方がルーズなのか中ほどが膨らみ、ひとつずつ紙に包まれたキャン…

魔少女・由衣 闇狩り【#2】逃亡−02

(承前) 階段の途中には、母親の屍体が転がっていた。 うつ伏せになったその背中には、大きな、骨ごと肉を削り取られたような傷痕が、三つも残っていた。顔は見えなかったが、見る気にもならなかった。 居間には、脚を投げ出し、壁に寄り掛かって座った姿勢…

魔少女・由衣 闇狩り【#2】逃亡−01

(承前) 由衣は、激しい熱気がたちのぼる、初夏の午後の国道を歩いていた。 国道とはいえ、大きな道ではなかった。舗装こそされてはいるものの、片側一車線で、交通量はごく少ない。ところどころでは、歩道も途切れてしまう。 身を包んでいるのは、お気に入…

魔少女・由衣 闇狩り【#1】誕生−08

(承前) 朝が訪れていた。 由衣は、背中にゴツゴツした感触を覚えて、目を覚ました。 (あれ? ここ……森の中? 私、なんでこんなところにいるんだろう) 最初に見えたのは、木々の葉の隙間から見える細切れの青空だった。どうやら由衣は、木にもたれ掛かっ…

魔少女・由衣 闇狩り【#1】誕生−07

(承前)『さあ、喰わせてもらうよ』 由衣の精神に向かって、舞唯の声が直接響いてくる。それは、聞こえるというよりも、舞唯の心が由衣の心に流れ込んできている、といった感じのものだった。 由衣は、不思議な浮遊感覚を覚えていた。 身体に、重みが、ない…

魔少女・由衣 闇狩り【#1】誕生−06

(承前) その日の深夜、由衣は、家族の目を盗んで家を出た。そして、少し離れた場所にある木立──まだ開発の手がさほど入っていない、やや深い森の奥に入って、作業を始めた。 解読できた暗号の末尾には、 《悪魔を呼び出す者は、自らの魂を現れた悪魔に捧げ…

魔少女・由衣 闇狩り【#1】誕生−05

(承前) その晩、由衣は一睡もできなかった。 瞼を閉じると、テニス部の部室で絡み合う舞唯と高崎の姿が、鮮やかに脳裏に浮かぶのだ。 それでも無理やり眠ろうとすると、心の中に、どう表現していいのかわからないどす黒い感情がわき起こってくる。そんな気…

魔少女・由衣 闇狩り【#1】誕生−04

(承前) 白いものが、蠢いていた。 それは、間違いなく全裸の女だった。 全裸の女が、何かの上に腰掛けて、こちらを向いている。少し前に傾いだ姿勢で首を俯け、重たげにぶらさがった大きな乳房を、ゆっくりと揺らしている。 「あは……んっ……」 女が、さらに…