かどいの『I'm in Rock!-Ⅱ』

ある文筆業者(分泌業者ではない)の生存証明。基本的に毎日更新。

#308

 動物の調教は、基本的に恐怖に基づいておこなわれる。自分が到底敵わない存在=主人に攻撃されないため、その指示に従うという原理だ。犬のように賢い動物なら、その一段上、つまり主人の称賛を得るため、あるいは主人の歓心を誘うために指示に従うこともあるが、それでも行動の基本には「主人には敵わない」という原理がある。だから主人の権威が失墜すると、動物は主人の指示を容れなくなる。実は人間も同じ原理で他者の指示を容れている。ただ人間の場合に面倒なのは、従うべき立場にある者が、主人の立場にある人間の価値を勝手に組み換える能力を備えていることだ。そして往々にして人間は、主人の価値を愚かにも読み誤る。というより、愚かであるゆえに主人の価値が理解できないのだ。もっとも、動物の調教の場合同様、そもそも主人の権威が虚偽のものである場合もあるので、指示に従わない人間が必ず愚かであるとも限らないのではあるが。