かどいの『I'm in Rock!-Ⅱ』

ある文筆業者(分泌業者ではない)の生存証明。基本的に毎日更新。

#157

 単車の免許を取って自分の単車を手に入れ、初めて一般道を走るべく装備を整えてエンジンを始動させた単車にまたがった時、オレは突然感動した。なんとなれば、自分の家の前の道は全国に――まあ正確には本州と九州だけ(当時)だが――に繋がっているわけで、だからこいつにまたがれば、そのどこへでも自由に行けることに気づいたからだ。自分の家の前の道が、すべての道に繋がっている。その当たり前のことが、初めて、本当に初めて実感として押し寄せてきたのだ。徒歩では無理な距離だって、こいつとならガス代の続く限り踏破できる。自分は全国(といっても本州と九州だけ、あくまでも当時)と繋がったという実感は、当時のオレにはとんでもなく大きなものだった。
 少し前から長子、オレにとって初めての子が歩くようになっている。やつは歩くのが楽しくて仕方ないようで、放っておけば一日中、リビングルームの中をあっちへこっちへと歩き回っている。にこにこと笑い、嬉しそうに歩き回っている。たかが歩くことぐらいでなぜそんなに、と思ったが、ふと気づいた。同じなんだ。オレが単車にまたがった時と同じ。それまではせいぜい這い回るぐらいしかできなかったやつは、自分の行きたい場所へ行くことができなかった。でも歩ける今は違う、テレビの前まで行くことも窓際へ行くことも、大好きな母親父親の足元へ行くこともできる。それはやつにとって、世界全部と繋がったのと同じ大きな事件に違いないのだ。そりゃ嬉しいよな、そりゃ楽しいよな。一日中歩き続けるよな。
 なあ、おまえよ。外へ出れば、また世界が広がるぜ。自転車に乗れるようになれば、もっと広がる。電車を使いこなせれば、運転免許を取れば、さらに広がる。どうかおまえよ、その都度感動してくれ。自分がこの世界に存在し、世界と繋がっているということを確かめ、そして楽しんでくれ。オレはそんなおまえを、ずっと見続けるからな。