かどいの『I'm in Rock!-Ⅱ』

ある文筆業者(分泌業者ではない)の生存証明。基本的に毎日更新。

#230

『弘法筆を選ばず』という。大昔は「弘法すげえ」と思ったし、その後かなり長い時期は「いやそれはない、あるいは弘法の時代はまだまだだったのだろう。今や各分野ともギリギリ限界までレベルはあがっていて、最上の才能に恵まれた者が最上のツールを駆使して初めてトップを目指せる状況にある。ディスカウント店で二足三文で売られているスニーカーでは、ボルトだって百m10秒を切ることは難しいのだ」と思っていた。ところが最近、久々にちょっと感想が変わっている。つまり「やっぱ弘法すげえ」だ。どういうことかといえば、どんな筆にもその筆の特性というものがあり、その筆にしか出せないもの、他の筆に勝る味があるのではないかということだ。弘法大師は、その味を見極め、それを引き出す力をもっていたということなのではなかろうか。つまり、どんな筆でも活かし切れる、その筆を使い切ることができるのが弘法であり、それが名人というものなのではないか、というわけだ。目指し得るトップはひとつだけではなく、そして結果的にそうして書かれたものは弘法の書以外にはならない。やっぱ弘法すげえ。