かどいの『I'm in Rock!-Ⅱ』

ある文筆業者(分泌業者ではない)の生存証明。基本的に毎日更新。

#702

 寒冷な環境で育った樹木は木質が緻密になり、さらに強風に晒されていれば緻密な中にも微妙な密度のばらつきが生じて、結果的に楽器用の材としては希有な良材、文字通りの逸材になるという。それが名工に出会い、吟味された他の材料とともに匠の技によって銘器と呼ばれる一品に仕上がるという。……という話があるとすぐ人間は同じことを人間に対して適用したがり、「だから人間も過酷な状況で育った方が」なんてことを言い出すものだが、そいつは些かならず乱暴ってもんだね。人間は木じゃないし、まして楽器でもない。そしてある人間が優れているかどうかに厳密な規準はない。ほんの数十年、短ければ数年いや数か月のスパンで規準が変わる。そんな中で常に通用する優秀さなんてのは成立し得ないだろう? それでも楽器になぞらえたい人がいるならこういおう「でキミはその楽器の音の良さを聴き分けられるのかい?」然り、あるレベルを越えた楽器の良し悪しがわかる人間はほんのひとつまみもいないんだ。人間もそうかもしれんぜ。そのひとの真価がわかる人間が数十人しかいなかったら、そのひとは優秀と見做されるだろうかね? 要するに安易なたとえ話は矛盾に満ちた罠だってことさ、騙されないようにな。