かどいの『I'm in Rock!-Ⅱ』

ある文筆業者(分泌業者ではない)の生存証明。基本的に毎日更新。

#881

 結局のところ個としての人間の快楽は“消えもの”であって、どんな物質の贅沢であれ人間のものにはならない。だから人間は、食べることや知ること、感じることに贅を尽くすのがいい。だが、だからといって物が不要かというと、それは違う。物は依代であって、個の経験を写し取り残す外部記憶装置だ。だから物を持たない者は記憶をもつこともできない。できると思っているのは自身への過信があるか、あるいは“その程度”の経験しかしていないだけで、つまりは貧しいということだ。ともあれいずれ個は消えるし、それとともに個が得た記憶も失われ、当然ながら外部記憶装置も不要となる。その時その装置に新たな意味を与えることができるのは、やはり人間だけだ。