#1246
“好き”になる対象は、少なくともふたつの要件を備えている。ひとつは、好きになることはそれを自分が認めるということだから、これは大前提として自分の肯定が必要だということだ。肯定済みの自分が認めるのでなければ、好きはそもそも成立しない。一方、好きになった対象には大抵、必ずしも自分の本意に沿ったものではないが、さりとてそれがそれであるためには否定することもできない、という要素が含まれている。だから“好き”を遂行しようとすれば、本意に従わないが認めなければならない、つまり自分を否定しなければならない場面があらわれる。まったく矛盾するこの事態を惹起しつつ、それでも抗えない魅力を備えるものに対して抱く感情が、すなわち“好き”というものなのだ。