『魔』シリーズあれこれ【1】
▲『魔少女・由衣』掲載誌 『Neo Vision』(1996年/辰巳出版株式会社)とその目次、引き出し裏の草薙ゆず描きおろしポスター、『魔少女・由衣』の本文部分
……と、さて、そんなわけで皆さんには、一か月半以上に渡って『魔』シリーズに無理やりおつきあいいただいた。読み続けてくださった皆さん、どうもありがとうございました。おつかれさまでした。その間こっちは、あらかじめ一回分ずつにちょん切っておいたデータを機械的にアップするだけで、ずいぶん楽させてもらっちゃいました。いやいやどうもありがとうございました。
そもそも由衣ちゃんの話は、まあ誰でも気づいたことだろうけど、永井豪大先生の『デビルマン』がアイディアの下敷きになっている。
それに寺沢武一大先生の『コブラ』の一エピソード、黒竜王の設定をちょっと拝借し、平井和正大先生の少年ウルフガイシリーズに倣って同族の経験豊かな先輩を登場させて、全体に自分なりの肉づけをしたという感じだ。え。そんなことバラしていいのかって。いんじゃね? 別にこれで儲けたわけじゃないし(由衣ちゃんの最初の分には原稿料がついたが)、なにより物語として全然別のものだもの。
で、「女の子が魔物になる」っていう根本的なプロット自体は、高校生の頃の後輩の女の子の失恋話からできてんのね。
してみるに、構想なんと15年!? いやいやそれはさすがにゲタ履かせすぎだねえ。
とはいえ、例によってかなりの紆余曲折の末かたちになったものではあった。
今を去ること20年ほど前、つきあいのあった編集者氏(現在は業界からすっかり離れて消息不明)が、辰巳出版ってとこに“移籍”したのがことの始まり。
そこで彼は、いわゆるヤングアダルト向けの小説雑誌の企画を提出した。その時、俺にも「書く?」って声をかけてくれたわけだ。
俺は当時、書き捨てに近いかたちでいろんな雑誌に細かい読み物記事を納めて暮らしていた。ここでひとつ、ちゃんとかたちになる作品をものしたいと思った。
それで、のった。(もちろん編集者氏の厚意に応えたいという気持ちもあったぞ)
雑誌は月刊化を狙っていたから、それを意識して十二回で話にひと区切りがつくようにプロットを作った。その時には二本の企画を出している。一本はファンタジー風の戦記もので、一話ごとが完全に独立したオムニバス。もうひとつが由衣ちゃんで、それがご覧の通りのもの。
結果として由衣ちゃんが採用され、雑誌掲載となった。
けっこう熱の入った企画になって、ペアを組んだイラストレーターの草薙ぐず、いや草薙ゆずさん(拙著『ウィザードリィの秘密』でも二枚ほどいい絵を描いておられる)が、かなり入れ込んだキャラ設定をしてくださった。
当時ファックスで送信されてきたイメージラフがまだ残ってる。こんなの。
掲載されたのは、森で由衣ちゃんが号泣(というか咆哮というか)するまでの部分で、となるとまさに「次回に向け乞うご期待!」ってなもんだね。
ところが残念なことに出版社側の意向が変わり、雑誌としてでなく新書としてシリーズ化されることになった。それに際して由衣ちゃんは一旦棚上げにし、雑誌企画では棚上げになっていたファンタジー風の方を書かないか、ということになった。
それも最終的には流れちゃうんだけどな。
なぜ由衣ちゃんが棚上げになったのか。
まあ一番理由としてありそうなのは、当初の新書シリーズの中に、ファンタジー系のものがなかったから……ってことだろうと思う。学園ものやSFものはあったけれどね。そのバランス取りのために、近学園ものと解釈された由衣ちゃんは控えになって、ファンタジーが選ばれたんだろう。
でも、それだけじゃなかったっぽい部分もある。
原稿を納めたあと、担当編集者氏(最初に声をかけてくれたひととは別の、雑誌が正式に動きだしてから知り合ったひと)に言われたんだよね。
「主人公の女の子がみにくく変身するってのはちょっと」
って。
今の状況からだと「えぇ!? そんなこと言われんの!?」って感じだと思うんだが、当時はまだそういう時代だったのよ。
確かエヴァが第一回放送をしてるような時代で、世の中はどんどん内側へ向かって掘り下げられるみたいな感触があった頃なんだけどね。まだ大勢の認識は、そういう感じ──主人公たる女の子は可愛くなきゃいけない──だったんだな。ひぐらしなんて影も形もない頃の話だw
それでストップがかかった部分もあったんだろうと俺は思ってる。
実際、俺自身も由衣ちゃんをグロテスクな化け物にすること自体にわくわくしてたんだからね。それが当然のこととして受け止められる時代だったら、そんなことにわくわくしないだろう。
そんな経緯があって、一旦は停止になっちゃった由衣ちゃんなわけだが。
森で吠えたまんま放置すること数年、なんだか由衣ちゃんが不憫になってねえ。
タイミングがなんとなく合ったおりに、その続きを書いてみたわけだ。
(この項続く)