#1290

「ねえ、みんな」と呼びかける声があったら、それは聞き流すのがよい。「ねえ、みんな」は他者の思考を操る呪文の基礎だ。自信たっぷりに呼びかける「ねえ、みんな」に、正面切って抗うことはたやすくない。そのことば自体に“同意しない者は異端だ”という圧力があるからだ。これにより半ばは「いや、そうではない」と感じていた心も揺らぎ「ねえ、みんな」と呼びかけた者側へ傾く。また「ねえ、みんな」が発された時、その話題は全員のものになる。発端が個対個の討論だったとしても「ねえ、みんな」が発された途端それはその場の全員が加わらなければならない議題となる。単なるギャラリーであったはずの全員が「ねえ、みんな」を発した者に加担するか、もしくは反対の立場にあるかの表明をしなければならなくなるのだ。それが討論であればまだしも、好悪といった個々の基準により判断されるべき話題だった場合には、個々の嗜好まで侵す呼びかけになる。だから「ねえ、みんな」が発されたら気をつけなければいけない。そこには呼びかける者が中心となる集団形成への意志がある。個々の思考は「ねえ、みんな」によって操作されてしまうのだ。「ねえみんな」は、だから、聞き流すべきなのだ。ねえ、みんな。