【むだ魔女マリナのおかしな家】アイディアメモ
無駄づくりで世にその名を轟かす藤原麻里菜氏が、こんなツイートをあげられていた。
笑顔の練習頑張るから子供向けの工作番組やらせてください
— 藤原 麻里菜 | Marina Fujiwara (@togenkyoo) 2022年8月9日
すぐ思ったことは、
『いや彼女にあってはあの得体の知れない無表情が魅力なのに』
だった。
笑顔の練習なんてとんでもない。
そんなの霜降り肉の脂抜きをやるようなもんじゃないか。
いや無表情はあんまりか。彼女だって笑うし驚くし、怒ることも悲しむこともあるだろう。ただその表情がおよそ微妙に彼女自身の本来の感情とマッチしていないと思しく、そこに奇妙なおかしみと親しみ、魅力が発生するんである。
とか書くと俺がまるで彼女の熱烈なファンのようだが、申し訳ないことに時たま流れてくる無駄づくりのツイートを「まぁたやらかしてくだすってますよ」と思いつつ嬉々として眺めているだけだ。なんかいろいろ申し訳ねえ気がしてきた。うう。
だがそんな申し訳なさに潰される俺ではない。
すぐに『じゃあ無表情、というか表情と感情がズレるというキャラクターが活きる設定はないものか』と考え始めるのである。
結果、ほとんど瞬時に思いついたのが、
【むだ魔女マリナのおかしな家】
だった。
こどもたちが住む村のそばに、ちょっとした森がある。
危険な獣がいるわけでも、森が深くて迷いやすいわけでもない。事実その森のど真ん中を貫いて、となり村へ続く道が拓かれていたりもする。
だがその森にこどもたちが入ることを、村のおとなたちは厳に禁じていた。
なぜかは言わない。ただ「森に入るとたまに出られなくなるぞ」と繰り返すばかり。
禁じられれば入りたくなるのはひとの道理。
こどもたちはある日、冒険を気取って森の奥へ入っていった。
運動全般が得意なコウ、ビビリだが頭の回転は早いサク、絵を描くのが好きなメイ。
三人は、ほんの半時ほど落ち葉と下草を踏みしめ進んだ先で、なにかおかしな家を見つけた。どこがおかしいかと訊ねられるとすぐには答えられないが、どうもヘンなのだ。実用性がないというか現実味がないというか、とにかく「住むためのもの」とは思えない。
でもそれは魅力的なのだ。おかしな家なのだ。
三人は好奇心に駆られ家に入り込む。
すると中では、だふっとした暗色の衣にすっぽり包まれた、なのにひと目で女性とわかる何者かが、大きな机に向かってなにごとかをちまちまやっていた。
腕は肘から先が服からすぽーんと抜け出し伸びている。
その腕の先にある手の、さらに先の指は、不思議に動いて、なにかを生み出している。
魔女だ。これは魔女に違いない。
やばいものに遭遇してしまった、と逃げ出そうとする三人。
だが。
「誰かそこにいますか」
魔女が無表情にゆっくりと振り返った――
……という導入があってですね。
そこから工作とメイキングの日々が始まるワケですよ。
こどもたちは、村での生活に、不満ともいえない不満をもっている。
焚きつけ用の小枝を集めるのが面倒くさいとか。水源の小川から風呂用に汲む水の運搬作業がかったるいとか。こないだメイんちのとなりのとなりのプレーゴさんちに赤ちゃんが生まれて、この子を喜ばせたいんだけど、どうすればいいかわからないとか。
魔女はそんなこどもたちの話を聞いては、超絶スゴい工作で回答への道を示すのだ。示すけど当人の作品は使われない。超絶スゴ過ぎて実用には向かないので。
魔女の知識と技術に、こどもたちの小さなアイディアが加わって、目的を達成する工作が完成する。それが基本のフォーマット。
完成すれば魔女は当然それを誇るんだが、なにか毎回ズレている。「どうですスゴいでしょう私の工作は! これさえつけてあげれば、どんな小枝も自分から歩いてきてくれるんですからね!」いやそんな機能は求めてねえです。つか小枝一本ずつにソレつける手間の方が大変です。だがそのズレっぷりと生真面目さが彼女の味だ。
こどもたちはかくて、毎日のように森の奥を訪ねるようになるのだった。
なお、おとなたちが森へ入るのを禁じていたのは、森へ入ればまず必ず魔女の家を発見するからだし、発見すればまず必ず工作にハマるからだし、工作はまず必ず生活をたのしくするし、また工作のコツをうまくつかめれば将来的には考え方に融通が利く使えるおとなになるからであり、つまり魔女に会うのはよいこと尽くしなので、こどもたちには自主的に森へ入ってほしかったからだ。人間はダメと言われるほどやらかすもんなのである。かつて誰もが魔女との時間をもったこの村のおとなたちは、全員がそれを知っている。
以下、設定のようなもの。
【むだ魔女マリナ】
森の奥に住む不老不死の魔女――と言われているが、本当に魔女なのかどうかはわからない。不老不死はどうも本当らしい。少なくとも村のおとなは全員こどもの頃に今と変わらない彼女に会い彼女と工作を楽しんできている。
一説には「無駄づくりへの情熱が有り余ってうわ滑って凝り固まった実体のある幽霊」という。「魔女自身が工作の成果で制作者が誰かはもはやわからない」説もある。
喜怒哀楽の表現に乏しく、また表現があってもしばしばそれがズレている。満面の笑顔のハズなのに目がぜんぜん笑っていないなどはザラで、ものすごく悲しい素振りを見せながら足元がこおどりしているとか、怒髪天を衝く勢いで寂しがっているとか。どうも感情系統と思考回路と肉体がぜんぶバラバラに駆動しているらしい。
工作の知識と技術は超一流ながら、それらは常に「えー!? そこにそんな手間かけるかふつう!?」的な空回りに費やされ、結果的に無駄なものが爆誕する。
【むだやしき】
マリナが住む森の奥の家。
といってもそんなに大きい森ではないので、森の向こう側からだとかなり手前の位置にある。ただし森の向こう側は川なので直接に裏から森へ入ることはほぼ無理。
基本的に「家」ではあるが、実用性に乏しい。
寝室はないし浴室もない。キッチンはあるがかまどに火が入った形跡はまったくない。いったいどうやって生活しているのかは皆目不明。
どう見ても無駄な煙突とか(排煙促進用のファンがついているが残念なことに煙突自体が屋内に繋がっていない)、どう見ても無駄な窓とか(なにしろ窓だけがにょきっと屋根から生えていてなにを隔ててもいない)、どう見ても無駄なカメラつきインターフォンとか(なぜか室内向けに設置されている)の類がいっぱいついている。
どれも魔女当人に訊ねれば、それなりの理由はついてくる。「これは高性能だぞと思ってつくってみたけれど、よくよく考えてみたらこの家では火を使わないのでした」「きれいな窓をつくったのだけれど、家の中は家具でいっぱいで壁が見えず、設置しても家の中から眺めてたのしむことができません。腹が立ったので屋根の上に置いてみました」「中で忙しくしている時の来客に『今こんな状態なんで、あとにしてください』ってわかるようにと思ったんですが、外からでは鳴らせないことに気づいたのは埋め込み配線もぜんぶ仕上げたあとでした」なにやってんだいったい。
そんな具合で中も外も無駄だらけだ。魔女の館の定番の大鍋ももちろんあるが、煮ることがないので横に大きな穴をうがち抽斗をいっぱい押し込んで道具箱にしている。
【コウ/サク/メイ】
基本パターンを踏襲した三人組。コウは脳筋少年、サクはヘタレメガネ小僧、メイは少し夢見がちなお絵描き少女。
工作の時、コウは意外に器用な指先で細かい作業をこなす。材料の調達にも秀でる。サクは情報統括係。マリナの技術や仲間のアイディアなどを巧みに調整して完成への道筋を建てる。メイはデザインや配色センスに優れ、機能だけでは味気ない工作に華を添える。もちろんそれぞれに得意分野を逸脱した活躍もある。
なおコウの家は村の指物屋、サクんちはパン屋、メイんちは農家だ。
コウとメイは十数年後に夫婦となり、サクはそれよりさらに数年後プレーゴさんちの元赤ちゃんと一緒になるが、この時点では誰もそんなことは知らないし考えてもいない。
【春井鍋夫】
道具箱にされてしまった魔女鍋の精。
自分の本来の姿と役目を奪ったマリナを恨んでいるが、最近ではもういろいろをあきらめてサトリの域に近づきつつある。
魔女鍋の立ち位置、つまり魔女の道具としてパートナーとして生活をともにするという点においては優秀で、マリナの工作の相談役や過去情報の検索・紹介役も務める。
ただし手も足もないので実作の役にはまったく立たない。
「千枚通しならわたくしのおなかの右端の下から三番めの抽斗に入っておりますよ」
「その工作は28年前に一度やりましたね。その時の資料がわたくしの背後の書棚の上から三段め真ん中辺りにあるはずです。資料の名前は……」
という具合。
マリナの正体を知る唯一の存在だが、もちろんそれを明らかにすることは決してない。
……と、ここまで書いてふと思ったが。
藤原麻里菜氏に笑顔を修得していただくというのは、もしかして究極の無駄づくりなんではあるまいか。それを念頭においてのツイートだったんではあるまいか。
なるほど。さすがは無駄の達人。
一筋縄ではゆかぬな。