かどいの『I'm in Rock!-Ⅱ』

ある文筆業者(分泌業者ではない)の生存証明。基本的に毎日更新。

#754

 士は己を知る者の為に死すとは司馬遷の紹介するところの刺客豫譲の言。豫譲は、自身の価値を重んじた主君が謀殺されたのち、その仇を討とうと生涯を懸けたが叶わず、自死に至った。最終的に目的には達せられなかったものの、彼がそのために費やした労には圧倒的なものがあり、それはつまり彼が“生きた”ことを示している。仇敵への追撃は死へ向かう一本道ではあったが、その一本道を駆け抜けることはまぎれもなくその時間を生きることであった。ゆえに豫譲の言はこうも言い換えられるのだ「士は己を知る者の為に生く」と。然り、豫譲は死ぬことを願ったわけではない。願ったのは復讐の成就であり、彼はその先を考えることを放棄しただけだ。単純に知己の為に死すと広言して憚らぬのは豫譲の真意を解せぬ愚者なのである。