かどいの『I'm in Rock!-Ⅱ』

ある文筆業者(分泌業者ではない)の生存証明。基本的に毎日更新。

魔女・美弥 闇狩り【#1 女教師肛姦罠】-03

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(承前)

 ドアを背に、麻美が立っていた。
 少し顎を引き気味にして、婉然とした笑みを浮かべている。上目づかいに真琴を見る目に、ぞくりとするような媚があった。
「あ、先生……だったんですか。驚かさないでくださいよ。隠れてたんですか。ひとが悪いっすね。俺、びっくりしちゃいました」
 真琴は、麻美の媚に気づかないふりをして、話しかけた。
 それでも少し、声が上擦っている。それほどに麻美の全身からは、見慣れない、けれども強烈な媚が漂い出ていた。
「鍵、かけちゃった」
 麻美が言う。その声も、普段の麻美の声とは違う湿りけを帯びていて、重い。
「美術教室に繋がるドアの鍵もかけてあるの。だから誰も、ここには入って来られないわ」
 言いながら麻美が、真琴に近づいて来る。
「え、えと。やっぱアレですか。ひとに聞かれるとマズいようなこと、俺、してましたか」
 さっきよりも高い声で、真琴が聞いた。
 変声期はとうに過ぎているが、一時のしゃがれ声を通りすぎて落ち着いた声は、それでもやはり他の男子生徒より高かった。それは真琴にとって、あまり嬉しくないことだった。その声が、緊張のあまり、さらに高くなっている。真琴は、動揺している自分が苛立たしくなり、腹の中で舌打ちをした。
 麻美はゆっくりと真琴に歩み寄り、手を伸ばせば触れられるほどの距離にまで近づいてきた。
 真琴の鼻腔に、今朝方嗅いだ甘い匂いが再び入り込んだ。いや、匂いは朝よりも、ずっと強くなっている。
 鼻孔から体内に入り込み、真っ直ぐに脳の芯まで届く匂い。
 それは、空気に混ざるものとは思えない粘っこさを備えた匂いだった。いちいち粘膜に貼りつきながら移動する液体のような“感触”が、その匂いには、あった。
「そうね。まずいっていえば、まずいわね」
 麻美が言う。
 声にも、感触があった。
 麻美の喉からこぼれた声に、耳を犯されるような感触。
 単に耳朶を悪戯されるのではなく、耳道の奥までが弄ばれている気がした。
 真琴は次第に、ただ立っていることにさえ苦しさを覚え始めた。
(これって……おとなの魅力、っていうやつなんだろうか。俺が意識し過ぎなのかな。くそ、なんだか……なんだか)
 ぐらり、と真琴のからだが揺らいだ。
 あら、と声をあげて、麻美が真琴を抱き留めた。麻美に支えられ、真琴はどうにかバランスを取り戻した。
「あ、先生。ごめんなさい。なんか、ちょっと……先生の香水の匂いに、酔っちゃったみたいな気分です」
 自分でも意外なほどすらりと、そんなことばが口をついて出た。
「あら、けっこうエッチなこと、言うのね。もっとも私、それを期待してキミをここへ呼んだんだけれど」
 え、と訊ね返そうとした真琴の唇に、柔らかく当たったものがあった。
 麻美の唇だった。
 真琴は驚き、目を丸く見開いて目前の麻美の顔を凝視してしまった。
 白い。化粧をしているのだろうか。いやそれにしては、怖いほど麻美の肌は半透明に透けていた。磨き込んだ大理石を思わせる、微妙な透け方だった。
 長い睫毛に飾られた瞼は閉じられている。
 意外にほっそりした鼻筋、その両脇がふくふくと膨らみまた萎み、呼吸が次第に荒くなる様子を目に見せてくれている。
 麻美のキスは、ただ唇を重ねるだけのものだった。けれど真琴は、舌を強引に捩じり込むキスよりも濃厚な興奮が、口から口へと送り込まれたように感じていた。
 長いような、けれど一瞬のような、奇妙な時間が過ぎた。
 麻美はゆっくりと、真琴から顔を離した。
「これが、呼んだ理由なの」
「え、えと……それって……」
「なんかね、さっきの授業中、急にキミが可愛くなっちゃって。本当はあの場で、後ろから抱きつきたかったのよ。我慢、したんだから。そう、我慢してたのよ私」
 真琴の目を覗き込みながら、麻美が言う。
「うぅん、もっと本当のことを言うとね。ずっと前から、キミのこと気になってたの。それが今日、我慢できなくなっちゃった、っていうことなの。わかってくれる?」
 大きな、黒い瞳だった。
 その瞳を見ているうちに、真琴は、また足元が不確かになるのを感じた。
 現実感が、ない。自分が立っているということにさえ、確信がもてない。
 麻美の突然の“告白”のせいだろうか。
 いや、それだけではない気がする──すべてがふわふわとしていて、まるで質感というものを備えていない──麻美そのもの以外は。
 そう、麻美だけが今、確かな存在感を備えている。
 その麻美が、唇の端をきゅっと持ち上げて呟いた。
「ここでしちゃっても、いいんだけどね」
 顔は少し離れているのに、まるで耳元で囁かれているように、麻美の声が真琴の頭の奥に直接響いてくる。
「ここで……しちゃう?」
 真琴は麻美のことばを繰り返した。自分で言うことで、その意味を確かめようとするような調子だった。
「そう、しちゃうの。するの。なにをするかは、言わないでもわかるわよね? おとなだもんね、もう。でも……」
「でも?」
「キミんち、今、ひとがいないのよね。鍵をしめても、ここは学校。いつ、誰が来るか、わからないわ。でも、キミんちなら、誰が来るかを気にしないでできるよね」
「でき、る……」
「行こうよ。連れてって、キミんちへ」
 真琴は頷いていた。脚に力が戻った。真琴は真っ直ぐに立ち、部屋の出口へ向かった。
 十数分後には、真琴と麻美は並んで校門を出ていた。
 校門を出た時、真琴は、視界の外れにあの女がいたように思った。
 野暮ったい服に、長い黒髪。
(……でも、関係ないや。今日は)
 真琴はふらふらと、麻美とともに家路をたどった。

(続く)