かどいの『I'm in Rock!-Ⅱ』

ある文筆業者(分泌業者ではない)の生存証明。基本的に毎日更新。

魔女・美弥 闇狩り【#1 女教師肛姦罠】-02

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(承前)

 残ったのは真琴と、真琴の襟首を掴んでいる男だけだった。
 男は周囲の仲間たちの変調に気づき、変にきびきびとした滑稽な仕種で左右を見回した。
 そして最後に正面の真琴に視線を戻すと、幾分上擦った声で、男は言った。
「お、オマエか? オマエ、なにをしやがったんだ!?」
 真琴は『俺じゃない』と答えようとした。
 だがその必要は、すぐになくなった。
 当の男が、他の仲間同様急に惚けた表情になるなり、その場にへたり込んでしまったのだ。
 男は一度、尻餅をついた恰好になり、スローモーションで仰向けに倒れた。
 かはぁ、かはぁ……と、喉と鼻を同時に使って息をする、鼾に似た音が聞こえた。
 男たちは、倒れたまま一様に奇妙な痙攣を起こしていた。
 ひくひくと尻を震わせ、腰を、まるで女と交わってでもいるかのような調子で、不規則に振り立てているのだ。
 真琴は男たちの無様な姿に一瞬気を奪われた。
(あ! あの女……)
 思い出した真琴は、慌てて女が立っていた辺りを見た。
 けれどもその時には、女の姿はもう消えていた。
(まさか……あの女がやったんじゃ、ないだろうな)
 この場には、あの女しか立ち会ってはいなかったのだ。そして自分は、なにもしなかった。ということは、これはあの女の仕業と考えるのが正しい。
 しかし、どうやって。
 なんのために。
 それを考えると、いっそうの寒けがした。
 真琴はぶるぶるっとからだを震わせると、足下に落としていた鞄を拾い上げ、足早にその場から立ち去った。

 翌日。
 学校へ向かう道の途中で、真琴は、背後にひとの気配を感じて振り返った。
「あぁ、バレちゃったかぁ」
 真琴のすぐ後ろに張りつくようにして歩いていたスーツ姿の若い女性が、悪戯っ子のような口調で応えた。
「なんだ、先生ですか」
 いかにも緊張が解けたという調子で、真琴は答えた。
 女性が数歩進んで、真琴の横に並ぶ。
 そしてふたりは、ゆっくりとした歩調で歩きながら、話し始めた。
「早いね、登校するのが。今日は週番かなにかなの?」
「いいえ。ちょっと早く目が醒めて。家にいても、つまんないですから」
「ふぅん……そういえば秋谷くん、今、独り暮らししてるんだってね」
「いや、独り暮らしなんて気張ったもんじゃ、ないです。バカ両親がなんとか婚式だかで、夫婦水入らずの海外旅行に行っちゃってるんです。旅行は三週間の予定なんで、まだあと十日は帰って来ないはずです」
「バカ両親なんて、ひどいなぁ。いいじゃない、仲良くて。私もそんな結婚がしたいわ」
「相手、いるんですか」
「失礼ねえ。二十五歳の女性にする質問じゃあないんじゃなくて?」
「あ、ごめんなさい。失礼しました」
 畏まった真琴の返答がおかしかったのだろう。女性は俯き、片手で口許を隠して、喉で抑えた笑い声を漏らした。
 亜崎麻美。真琴の通う学園の、美術教師。
 肉感的な、それこそ本人がそのままデッサンのモデルになれそうな美女だ。
 そのルックスのせいか、真琴の友人たちの間でも、彼女の人気は高い。中には露骨に、
「亜崎とヤリてえよな」
 などと口にする者もいる。
 真琴も確かに、教師としてよりは、年上の魅力的な女性として麻美を見ているところがあった。
 並んで歩いていると、ふといい香りがする。
(香水、つけてるのかな)
 真琴は急に、麻美がおとなの女であることを改めて教えられたような気がして、俯いた。
 校門の前に着いた時、麻美は、小走りに真琴から離れた。
 そして真琴より先に校内に入ると、麻美はくるりと真琴を振り返って微笑んだ。
「じゃ、またあとでね。今日は、私の授業もあったわよね」
「あ、はい。じゃ、あとで」
「ん。あとでね」
 軽く手を振り職員用玄関に向かう麻美を見て、真琴は、
(今日はなんとなく、いいことがありそうだな)
 と思っていた。
 麻美の授業は、午前後半の時限だった。
 ここ数週間は、石膏彫像のクロッキーが授業の主な内容だ。当然、麻美が細かく指導したりする必要はない。
 麻美は、椅子にかけて本を読んでいた。時おり立ち上がっては、ゆっくりと教室内を歩き、生徒たちの絵を覗き込んだりする。
 その麻美が、授業も終了近い刻限に真琴の後ろに立った。
 真琴が振り返ると、珍しく麻美は腕組みをし、難しげな顔をしている。
「えぇと……どうしたんですか、先生」
 真琴は訊ねた。麻美が言った。
「なんだか、ねぇ……ちょっと、ね。気になるなあ。なんだろう、よくわからないんだけど、なんだか……そうね、秋谷くん。放課後、美術準備室まで来てもらおうかな」
 周囲の友人たちが、真琴がなにか失敗でもしたのだろうかと興味津々に聞き耳をたてている。
「そうね。来てちょうだい、独りでね」
 麻美が言った時、終業のチャイムが鳴った。

 放課後。
 帰り仕度を済ませてから真琴は、言われた通り美術準備教室を訪れた。
 教室を出る時、麻美ファンを自認する数人の男子生徒たちに、真琴はからかわれた。
「秋谷、うまいきっかけ作ったな。くそ」
「いったいおまえ、なに描いてたんだ? 亜崎の態度、マジで普通じゃなかったぜ」
「もしかしておまえ、すっげえイケナイものでも描いてたんじゃ……」
 どれも遠慮なく、他愛のないことばではあったが、真琴はずいぶんとそれを気にした。
 なんとなれば、自分に、呼ばれるようなミスがあったとは思えない。自分が呼ばれる理由の見当が、皆目つかなかったからだ。
 けれど、気づいていないのは自分だけで、実はなにか決定的な不始末を麻美へ仕出かしてしまっていたのかもしれない……
(朝はいいことがあると思ったのに、当の亜崎先生に呼び出し食らうなんてな。昨日のことといい、ツイてないよな)
 いささかならず沈鬱な気分で、真琴は廊下を歩いていった。
 美術教室の隣にある準備教室に着く。真琴は、ドアをノックした。
「先生。秋谷です。来ました」
 返答がない。真琴は、ノックを繰り返した。それでも反応がない。ドアノブを捻ってみる。鍵はかかっていない。
 真琴はドアを開き、部屋の中に入った。
(あれ……?)
 室内には、人影がなかった。
 いや、気配すら感じられない。
 デッサン用の石膏像やイーゼル、画材の類が所狭しと並べられて、部屋は奥まで見通せない。
 真琴はその室内に、進んだ。
 と、背後でばたんとドアの閉まる音がし、続いてがちゃがちゃと鍵の閉まる音が聞こえた。真琴は慌てて、後ろを振り返った。

(続く)