かどいの『I'm in Rock!-Ⅱ』

ある文筆業者(分泌業者ではない)の生存証明。基本的に毎日更新。

じょしこーせーとおっさんと宝箱とアバタール

 俺は貧しい中年であり、かつジャンクフード好きな中年でもあるので、仕事帰りにマックで小腹を満たすなんてことは日常によくやらかす。
 年齢には見合わない真似なんだろうなあとは思うが、フライドポテトとかダブルマックとかをしみじみ味わいながら文庫本を読むのは、けっこう心の安らぐ時間だったりするのよね。
 で今日もそんな具合にマックに寄ったわけだが、隣の席にはじょしこーせー三人組が座っていて、宿題なんぞを突つきながら若々しく華やかにほーかごを過ごしていたのだった。

 最近のじょしこーせーがみんなそうだとは思わないが、彼女たちはけっこうあけっぴろげ。例によってミニに仕立てた制服を着ていながら、平気で椅子に片脚もちあげてたりする。
 特に俺の視線の真ん前にいるひとりは、右脚は前へ投げ出し、左足の踵は右脚の付け根あたりに置き、膝はもちろん思いっきり開いていた。スカートの布地が柔らかいからギリギリで前は隠されていたが、尻は椅子の縁までズリ下がっていて、もー危険極まりない姿だ。
 もちろんガン見したりしたらちょーアウトなので、本のページをめくるついでにチラ見したりしていたわけだが(ああおっさんくせえ)、ふとした拍子に彼女ともろに視線がカチ合った。
 にらまれるかと思いきや、ふつーに真っ直ぐこっち見てくれちゃったよ。
 むしろこっちが照れくさくなって目を逸らした。

 彼女の目に、見るからにうだつのあがらない中年男を蔑むような色とか、いやらしい目で自分を見る男への嫌悪の色とかは、感じられなかった。強いていうなら、場に不釣り合いなおっさんへのなにげない興味とか好奇心の類が、その目にはあったような気がした。
 自然な笑顔でも返せたら、あるいは、ふた言み言の会話ぐらいはできたかもね。
 でも、キモがられる可能性のが高かろう。
 うっかり話しかけでもしたら、いきなり険しい表情に変わり、周囲に「このヒト、痴漢でーす」とか言い出したりするかもしれん。
 たとえ、触れなばなびかんという風情を見せていたとしても、じょしこーせーにコナかけるのは当節自殺行為なのだ。

 でも、彼女がもしも、変な意味でなくなんらかの応答を待っていたとしたら。
 俺は珍しい機会をのがしたことになるわけだ。
 だがしかし、万一彼女がおっけーだったとしても、周囲は放っておいてくれないんだろうな。「なんだあのオヤジは、未成年者にちょっかい出して」ってな目で見られないとも限らない、というより見られるに違いないぞ。
 くわばらくわばら。

 で、ふと思い出したものがある。
 その昔、ウルティマ Ultima なるコンピュータゲームありき。ロード・ブリティッシュ治めるブリタニア(ソーサリア)世界に受難の時ぞ来り、異世界より召還されし者数々の難題を悉く退け世界に平安の時をもたらすとぞ云ひき。ある時召還されし者の行うべきは徳を究めることなれば、あらゆる誘惑に打ち勝ち身心を磨く。その徳を得た者を民草アバタールと呼び敬えり。
 平たくいえば、アバタールという徳のカタマリになるために、とことんストイックにプレイしなきゃならなかったんだねえ。
 だもんだから、目前に宝箱があっても手をつけない。ひとんちのタンス開けたりなんか以ての外。でも宝箱には、ちゃんと中身が設定されてるのよね。もちろん開けることもできる。でも開けたら徳に背くことになっちゃうから、開けられない。じゃーなんのためにそこに宝箱があるの? というと、もう「宝箱だからそこにある」としかいえない。そんな状態。
 そういう宝箱とじょしこーせーって、なんか似てるなーと思ったわけよ。

 もちろんじょしこーせーだから宝ってわけでもないけどさ。
 今般、うっかり話しかけただけで人生が壊れかねない存在が、おとなから見たじょしこーせー。話しかける内容が偉そうなことでもエロそうなことでも同じ。たとえ「あーキミたち真面目に生きなさい!」と説教するのでも、変なおっさんであることには変わらない。
 でも彼女たちはそこに存在し、ちゃんと彼女たちなりの存在意義ももってたりなんかして、ちゃんと生きてるわけだよな。
 アバタールと宝箱は、同じ世界にあり、それぞれに関係し得る要素を備えながら、でも関係できない。たとえ中身が入っていても、アバタールにとって宝箱は存在しないも同じ。
 おっさんとじょしこーせーも、それぞれに交流をもち得る要素を備えながら、でも交流はまず無理。たとえそれぞれに事情や理由を備えていても、おっさんとじょしこーせーが接触すること自体がほとんど罪になっちゃうようなもんなんだもの。こうなると互いに目の前に実在していても、存在しないのと同じだよな。

 なんか不思議だよねえ、こういうのって。
 同じ次元の同じ世界、目の前にお互いがありながら、互いに接触があり得ない存在。接触を禁じられた存在。でもお互いは確かに存在している。でも接触があり得ない以上は、その存在が互いに直接の影響を与えることはない。
 なんか考え込んでると目眩がしてきそうな奇妙な“関係”だ。

 もちろん周囲には、それに近い関係は多々ある。
 だが、決定的に接触に“危険”が伴うという点では、おっさんとじょしこーせーの間にある壁に勝るものはない気がする。
 いつの間にか俺、不思議な世界に入り込んじゃったんだなあと思う。
 まあそれだけの話なんだけどねえ。