かどいの『I'm in Rock!-Ⅱ』

ある文筆業者(分泌業者ではない)の生存証明。基本的に毎日更新。

左用ギター

 左利き用ギターを入手した。
 リサイクルショップの出物で、¥3,800-。ストラトタイプのエレキ。ブランドは Selder だ。
 なんでそんなものを買ったのかというと、とあるカスタムのために以前から左用ネックが欲しかったからだ。
 だが左用ギターは滅多に見ないし、高価でもある。こういう出物は珍しい。値段を考えると大いにメリットがある。
 ただ、買ってはきたものの、種々の事情(主に当人のやる気)の問題で、すぐカスタムにかかれるわけではない。なのでしばらくはこの状態のまま、置いておかれるだろう。

 さて、素性を見てみようか。
 Selder は安売りで悪名を馳せるブランド。なにしろアンプやらスタンドやらピックやらストラップやら、ギター込みで20点のセットになっていてすら ¥15,000-(税別)って値段で売られてるギターだからねえ。
 もっとも手元に置いていろいろ調べてみると、これがなかなか莫迦にしたもんでもない。
 ペグマシン(弦巻)は一応ダイキャストタイプだし、その他ハードウェアも決して悪くはない。ただしブリッジサドルは10mmピッチで、だから通常の11(.3)mmよりもトータルで3mm弱の幅の差が生じている。サドル自体は10ピッチでもブリッジの固定ネジ穴のピッチが広めだからこういう結果になる。
 それにともなってピックアップ幅もやや狭い。実測値で1mm弱。がんばってフェンダー・カスタムショップのピックアップを買ってきてもつけられなくて泣くってパターンだなw
 ただ10mmピッチも莫迦にしたもんではない。女性にはおそらく、ほんの少しだが弾きやすいはずだ。リプレイスメントピックアップが限られるのは問題だが、そのままでも別に悪くはない。よくもないが。

 ツブシで塗られたボディは軽い。この軽さは多分、単板のものだろう。もっともなにの単板かはわからない。
 ぱっと見てわかるレベルでボディ自体が微妙に薄い。測ってみると、44.65mm。比較で他のストラトを測ってみたら、Fender Japan(Eシリアル)45.95mm、Fender Mexico 48.00mm。70年代後半の Fender USA は今ケースに入ってて出すのが面倒くさいから測っていない。まあ多分メヒコと同じぐらいだろう。メヒコはインチ換算でおよそ1.9in、2in厚の板から切り出して表面を整えればそれぐらいの厚さになるはずだ。
 ネックはワンピースメイプル。意外にも耳貼りをしていない。指板はローズで、これがそこそこの厚みを備えている。もっとも色は薄い。さほどグレードの高い材ではないようだ。ただ樹脂抜きは充分になされているし、アバレはない。
 指板Rは300ぐらいか。けっこうフラット。鍔出し22フレット仕様。ビンテージタイプのフレットは、全フレットとも浮きはないし、特定ポジションでの音詰まりなどもない。かなりきちんとした作業がおこなわれたようだ。
 ナットは見るからにプラスチックで安いが、ナットファイル自体はきちんとおこなわれていて、溝の深さもほぼ適正。
 トレモロアームはまだ使っていないが、まあ期待はしない方がいいだろう。もっともフェンダージャパンのアームだって狂うんだから、期待する方が贅沢というもんだ。

 驚いたねえ。値段のわりに、ずいぶんと作りがいいんだねえ。
 アンプに繋いで音出しもしてみたが、うん、いい音じゃないが使えない音じゃない。今ジャパニーズビンテージとか言われてけっこうな値段がついている1970年代後半のエレキって、定価 ¥30,000-代のやつがこんなもんだったよ。ウソじゃない。うちに当時のギターが何本かある。
 どうあれ、値段からしたらかなりのお買い得品だ。
 なにより、これはたまたまこの個体だけの話なのかもしれないが、ネックが捩じれても反ってもいないのには感心した。充分にシーズニングした材を使っているんだろう。もちろんローズを貼ることでメイプルとローズが互いに変形を抑制しあうという効果はあるだろうが、それにしたって律儀なもんだ。
 当面、文句をいう筋合いの楽器ではない。ちゃんと遊べるし、なにしろ値段が値段だ。
 初心者に勧められる類ではないが、逆に中級者以上がいじって遊ぶにはいい。

 置いておくだけではつまらないというわけで、とりあえず弾いてみた。
 弦は当然、左用に張ってある。

 ……おもしろい。初心者気分。これはおもしろい。
 もちろん、というのもなんだが、右手でネックを握ったわけではない。左手で握る。だから一弦が一番太いという逆転の構図になる。
 いっそ右左完全に逆で弾いてみたい気もするが、右手の指の爪は弦をはじくために伸ばしてあるからちょっと無理。
 いずれにせよこんな風に新鮮さが味わえるとは思わなかった。なんか得した気分♪
 一応は弾ける(はずの)曲を、頭の中で上下引っ繰り返しながら弾く。手が思うようには動いてくれないし、チョーキングひとつをするにも力を入れる向きが上下逆。微妙にストレス。でもそのストレスがいい。いや、こんなことがこんなにおもしろいとは。
 そういえば、ウソかホントかわからないが、左利きギタリストの故ジミ・ヘンドリックスがとある楽器屋へ行った時、左用に弦を張られたギターがなかったので、右用ギターを引っ繰り返して弾いた、という伝説がある。巧かったらしい。
 やっぱジミヘンって天才だったのね。(まあ話が本当だったらということではあるが)

 うーん。ちゃんとした左用ギターも探した方がいいかもしれないな。楽しめる。
 とりあえず脳のトレーニングになりそうだ。

※続編あり⇒『左用ギターその後』http://d.hatena.ne.jp/st79/20160815/1471256244