かどいの『I'm in Rock!-Ⅱ』

ある文筆業者(分泌業者ではない)の生存証明。基本的に毎日更新。

左用ギターその後

 その後いろいろと思惑があって、Selder のギターを分解してみた。(参照⇒『左用ギター』http://d.hatena.ne.jp/st79/20160628/1467130543
 分解といっても、とりあえずネックを外してみただけだが。
 それで、ちょっと唸った。

 正直、入手してきた時のままの状態で弾いた時には、充分通じるグレードだと思っていたし、今でもそれは変わらない。
 そもそも一万円少々で買えるエレキギターなのだから、そう多くを求める方が間違っている。フレット音痴でなく、とりあえず音が出ればそれで用は足りる。
 以前にも書いたが、実際にアンプに繋いで音を出せば、クロウト衆が喜んで何万円ものお金を出す“ジャパンヴィンテージ”とか呼ばれるギター群と大差ない。さすがに十万円を越える新品ギター群に比べれば音色も抱えた時や弾いた時のしっくり感も別次元だが、価格差を考えたら以下ループ。

 で、そもそもこれを入手した時の目的のための第一段階ということで、ネックとボディに泣き別れしていただいたわけだが。
 ……これはちょっといただけないね。

 ネックを止めるスクリュウが曲がって入っている。
 だもんだから、ネック側のスクリュウホールの位置がバラバラになっちゃっているねえ。
 これがかなりすごい。明らかにネックにかかる力の配分が変わっているレベル。

 くどいが、音に問題はない。
 おそらくそれは、ヌメリカルコントロールマシンによるボディ材加工と、プレーナーを使ったネックヒール加工の功績だろう。
 ギターはボディとネックが通常は別部品として作られ、組み上げられてかたちになる。
 だからボディとネックの接合部の加工は常に大問題で、理想的にはここが髪の毛ひと筋の隙間もなくぴったり合わさるのが望ましい。この発想の極みがスルーネック、つまりボディエンドからヘッドの先までを一本(一体)の材で作っちゃってボディは左右から貼りつける、という構造だ。
 かつては、といっても三十年以上は前のことだが、この接合部の加工は手作業に近かった。職人がさまざまなツールを使いつつ、(主に)木材を切り出し、合わせていた。
 だから個体ごとのバラつきが当然のようにあって、ぴったり合うものもあれば微妙にズレたものもあった。だから、たとえどんなに高級な材を使っても、それが楽器としてよいものに仕上がるとは限らなかった。
 だが、材を完全に固定し、数値制御で自動的に加工する機械が出回り、これに基本の加工をまかせられるようになってからは、様変わりした。
 常に同じ精度、同じかたちに、組み合わせ部分の加工が仕上がる。当たり外れなんかない。おまけに仕上がったパーツは、まさに髪の毛ひと筋の隙間もなくぴったり合わさる。
 楽器の音は変わった。

 もちろん加工後の材の変化(主に乾燥や温度による収縮)はあり、出荷時にはぴったりだったものが年を経るとともにズレたりはする。だが根本的には、新品時にはだいたいどの楽器もイイ感じでマッチしていて、そこそこに鳴る
 ヌメリカルコントロールマシンの一般化は、また別の事態も生み出した。
「職人要らず」になったのだ。
 以前は 0.0xミリ単位の加工をこなす職人の技術が不可欠だったところへ、データさえ入力してやればなんぼでも同じものを繰り返し文句も言わずつくり続ける機械がやってきたわけだ。
 さらに、その技術を習得するのにかかる時間も要らなくなる。
 昨日稼働し始めた工場で、何十年の修行をした職人レベルの加工ができるようになったわけだ。

 もちろん、というのもなんだが、材、特に木材というものは常に同じものではない。どころか、一枚の板でも場所によって性質が違うわけで、本当の本当にシビアな加工をしたければ、それを“読める”だけの感覚も、読み取った状態に合わせて加工を調整できる技術も必要だ。だから、本当の本当にいい楽器を生み出すには、職人の技術は必要になる。
 だが、売価でせいぜい十万円前後の楽器を作るのなら、そこまでシビアな技術は要らない。また、安価な品なら量産性が重要だ。機械にできるならまかせた方がよい。

 ……基礎情報のためにだいぶ横道に入り込んだ感があるな。
 Selder のギターは、数値制御機械によって加工されたボディと、プレーナーで材の基本仕上げをしたネックで作られていると思われる。
 ゆえに新品もしくはそれに近い状態であれば、ボディとネックは「合わせただけでぴったりこん」なのだ。
 だから止めネジが曲がっていても、大した問題にはならない。
 要はボディとネックがぴったりと接触し、適度なトルクで閉め込まれたネジで止められていればよい。それで充分に、楽器としての性能は発揮できる。
 だが、相応の年月が経ったら、これはさすがにマズそうだ。
 ギターには常に弦の張力がかかっている。ネジの入り方が斜めだったら、接合部にかかる張力はバランスを崩し、妙な方向へ力がかかり続けることになるだろう。そうなればそもそも木材なのだから、ゆがみが生じやすくなって当然だ。
 また、使用時に弦の張力以外の力が加わる場合もある。この場合にもやはり、接合部に奇妙な負担がかかるだろう。つまりは、壊れやすくなる。
 さらに、抜いたスクリュウは細かった。スクリュウの太さは、ネックをどれだけしっかり止められるかにかかわってくる。これもあまり好ましいこととはいえなさそうだ。
 総じて、新品時にはそこそこの価格のギターと大差なく使えるが、長くは使えないということになるだろう。弾き続けて五年も経ったらお役御免、という感じかもしれない。

 まあ、しかし。
 それでなんの不都合がある? という気もする。
 ほとんどのプレイヤーにとって、エレキギターなんてものは五年ももてば御の字だろう。
 俺自身、最初に買ったエレキギター(1977年頃のグレコブランド。多分当時の製作会社はマツモク)は、さんざん乱暴に扱ったあげく五年後には壊してしまった。
 当時定価、五万円。これはとてもよいギターで音もよく、各所の仕様もよい意味で初心者向けだった。実は頑丈でもあったと思う。
 それでも乱暴なガキが扱えば五年でイカれるのだ。
 また、俺はその後何十年にも渡ってギターに触れ続けているが、そんなやつは何十人にひとりいるかどうかだ。たいがいは十年もせず離れる。いや、「やってみようかなあ」で買ってみた程度のひとが弾けるようになる率が、そもそもに低い。
 そういう条件を考えると、「五年もつ」は充分なスペックだ。

 でもねー。
 俺としてはこれ、納得ゆかないねー。
 ネジは真っ直ぐ入っているべきだよ。せっかく加工がいいんだから、もっとまともな組み上げをしてやりたいよ。いろいろと“ちゃんと”したものにしてやりたいなあ。
 というわけで、Selder ギターの更生計画を発動することにした。
 なにぶんムラッ気野郎ゆえ、いつ完成するかわからないが(なにしろ手元にはもう二十五年ぐらいやりかけのまま放置されているギターがあったりするしな)、とにかくこのネジの問題だけはいつか解決したい。
 一旦ひとまわり大きな穴を開け直して、サイズを合わせた埋め木を入れ、ネジ穴を開け直して、適正なネジを準備し、真っ直ぐにネジ込む。
 まあ本気でかかれば二昼夜で終わる作業だが、こちとらどこにその本気があるやらわからねえ生物なんでい。勘弁してくんなッ。

 あー、あとね。
 ツバ出し部分なんだけど、これも手抜きだったわー。
 これは根本的にもうどうしようもないし、する気もないけどね。
 いずれこれは致命的な問題に発展する気はするが、今は目を瞑っとく。