かどいの『I'm in Rock!-Ⅱ』

ある文筆業者(分泌業者ではない)の生存証明。基本的に毎日更新。

楽器ツマンネ

 まあ勝手な話ではあるんだけれども、最近の楽器ツマンネ。刺激がない感じ。
「楽器に刺激なんてものがあるんですか」
 そりゃあるよ。もっとも、誰もが同様に感じるとは思わないけどさ。


 まあ楽器ってのも商品なわけだからね。そして商品には、その時々の売れ筋というか、モードみたいなものがあるわけで。
 たとえば二輪車ならさ、35年ぐらい前に高性能エンジンのブームがあったわけよ。この時の火付け役は、ホンダのCBX400だったと思う。インラインフォーエンジンを突き詰めて、街乗りには不必要なほどの高性能をもたせた。カワサキもスズキも追随した。やがてそれが発展して、法規制の緩化も手伝って、レーサーレプリカブームがきた。しばらくそれが続いたら、アメリカンブームがちょっときた。すぐに大型スクーターがとってかわった。そのまま10年ぐらい大型スクーターが進化を続けて、最近また若い層に“単車”のブームがきてるっぽい。オールドブリティッシュスタイルみたいな渋いのや、未来的デザインのものや、いずれにしても膝の間にガソリンタンクがある正統派デザインの二輪車を最近よく見かける。
 こういうブームが、商品の売れ行きを左右するわけだ。


 楽器にも当然そういうブーム、モードがあってさ。あ、念のため先に断っておきますが、ここでいう楽器ってのはギター、特にエレキギター限定ね。
 たとえば1970年代後半には、オリジナルギターブームがあった。遡ればもっと以前にもヤマハ旧SGシリーズなんてのもあったし、テスコ辺りはダン・エレクトロだかモズライトだかわかんない国籍不明ギターを作ったりしてたわけだが、その辺はオレまだリアルタイムじゃなかったから特には語らない。とにかく '70年代後半に、国産メーカーのオリジナルデザインギターのブームがあったのよ。
 火付け役はグレコ(は神田商会のブランドで、製造元は富士弦楽器製造=今のフジゲン)の「GO」シリーズだったと思う。GOは多分 Greco Original の頭文字。当時ブレイクしたバンド、ゴダイゴがバンドまるごと神田商会のエンドースを受けてて、ドラムスのトミー・シュナイダーはタマのドラムスを、ベースのスティーブ・フォックスとギターの浅野孝巳はグレコのGOとGOB(ゴォ・ビー。多分 Greco Original Bass)を使ったこともあって、けっこうヒット。グレコはそれ以前からMRシリーズとかも出してて、オリジナルギターに意欲を燃やしてたんだよね。
 アリアプロIIがそれに追随するかたちで、アレムビックの影響を多分に受けつつも、RSシリーズを出した。YMOのワールドツアーで渡辺香津美が使ったやつ。確かその少し前には、今も新品が手に入るPEシリーズも出してる。
 ヤマハには言わずと知れたSGシリーズがあった。初期デザインのものではなく、カルロス・サンタナの意見を仰いだダブルカッタウェイのレスポールみたいなやつね。
 当初はドラム屋のタマが製造にかかわっていたイバニーズ(最近はアイバニーズと呼ばれる、基本的には神田商会の輸出用ブランド)は最初からオリジナル志向で、この当時に始まったAR(アーティスト)シリーズは今も時折再生産されている。オフコース鈴木康博の使用で有名になったやつだ。


 ところがそんなブームが、1980年代初頭には「ドンズバコピーブーム」に蹴散らされてしまった。東海楽器が皮切りだったが、アメリカのフェンダー社やギブソン社のギターを素材からそっくりそのままにコピーするというものだ。
 これは '80年代半ばを過ぎた頃にオリジナルメーカーからの干渉が始まって、ばたばたと終わってしまったが、業界にもたらした影響は大きかったと思う。グレコのスーパーリアルシリーズ、フェルナンデス(バーニー)のザ・リバイバルシリーズ、そして本家トーカイのドンズバシリーズ(特に統一されたシリーズ名はなかったので、通称)。これはもう徹底的なコピーで、本家の仕様なら評価の低い部分までもコピーするというこだわりぶり。
 まあ海外の一流ミュージシャンたちはみんなフェンダーギブソン愛用者なわけで、どんなに国内ミュージシャンががんばってもアマチュア小僧たちの憧れはフェンダーギブソン。中にはポリスのスティングみたいに日本製(ア)イバニーズのベースを使う奇特なミュージシャンもいたが、それは例外中の例外。小僧はみんなフェンダーギブソンに憧れていたのだ。だからストレートコピーが売れないわけがない。どんなに国内メーカーがオリジナル作りに意欲を燃やしても、売れなきゃ仕方がない。業界そろって右へ倣え、だった。


 同時進行で、もうひとつのブームがあった。アレムビック社やB.C.リッチ社(どちらも海外ブランド)の、究極のギター作りだ。
 まずボディの作り方が、従来のギターとは根本的に違った。端的にいえば、さまざまな特性をもつ材を貼り合わせて頑丈かつフラットな特性(もしくは極端な特性)をもたせる。さらにそこへ、贅を凝らした電気回路を搭載する。どんな音でも、従来のギターを上回るクオリティで出せますよ、てな感じだ。
 そもそもエレキギターの電気回路ってのはすごく原始的で、フレミングの右手の法則から一歩も抜け出していないようなのが多い。音量調整や音質調整だって、詳しい説明は省くが、とにかく単純な仕組みだ。けっこう入り組んだ電気回路を搭載したギターを上手に売ったのは、アレムビックとB.C.リッチが最初だと思う。
 アリアプロIIのRSシリーズはもろにアレムビックの影響を受けていた。もしかするとGOシリーズもそうだったのかもしれない。


 けれど前述の通り、ストレートコピーはオリジナルブランドの権利の主張にであい(当然だw)、あえなく失速する。その後しばらくは模索の時代があったが、やがて思いもしない展開が訪れる。(そしてそこに至って国産メーカーは総倒れになる)
 なんと、フェンダー社やギブソン社が、自社の(過去の)製品をコピーし始めたのだ。
 たとえばフェンダー社。フェンダーといえばテレキャスターストラトキャスターだ。テレキャスフェンダー最初のギターで、1950年から延々と製造され続けている。ストラトは1954年からだ。だが当然ながら、ずっと同じ仕様で作られてきたわけではない。材の変更や電気回路の変更、構造の変更など、さまざまなマイナーチェンジが重ねられてきた。
 ストラトは当初スモールヘッドと呼ばれる細身のヘッドデザインを採用していたが、1965年前後からワイドヘッドと呼ばれるスタイルに変わった。それより前、1960年頃にはそれまでのメイプルワンピースと呼ばれるネック設計が、ローズウッド製指板を貼りつける仕様になった。ローズ指板も、初期のスラブボードと呼ばれる厚板の単純な貼りつけから、いつの間にかラウンドボードと呼ばれる曲げた薄板の貼りつけに変わったりした。他にもトラスロッドの仕込み方とかネックのセット方式とか、果てはピックアップの磁極の逆転やら塗装・塗料の変更やらと、何冊もの本になるぐらいバリエーションが多い。
 だが、著名ミュージシャンに愛用されているのは、なんとまあおよそどれもが古いギターなのだった。ストラトに限っていえば、せいぜい1962年前後のものが人気高で、それよりあとのものは一般セールスこそそれなりにあっても、“愛されるギター”には至らなかったということだ。
 というわけで、日本のコピーもそういったもの、特定すれば1954年スタイルと1962年スタイルのコピーが主流になっていた。だがオリジナルフェンダーは、今でしょ今! とばかりに昔を顧みず、常に新しいスタイルを追い続けていた。
 それがですよ奥さん。
 詳しくは記憶していないんだが、1990年代に入ってから、フェンダーギブソンも自社の古いギターをコピーして、それをビンテージシリーズとかなんとかいって主力商品にしてっちゃったのね。


 まあしかし、最初はけっこういい加減なもんだったよ。
 ヘッドデザインが違うとかさ。ネックの仕込みの深さが、とかさ。正直な話、トーカイのコピーシリーズの方が、よっぽど正確に古いギターをトレースしていた。
 オリジンもそれに気づく。で、年を追うごとにコピーの精度は高まり、2000年に入る頃にはもう完全に寸法や仕様においては過去の製品の再生が完遂されていた。
 やがてそれだけでは飽き足らないという向きのために、材をとことん選んだり、製作を社内の名人にやらせたりして、寸法は同じでも質が違う、という高グレード品が市場に投入される。その勢いで、2000年代半ばぐらいまでは、毎年のように新しいムーブメントが楽器屋に訪れていた。


 そう、国産オリジナルブームの頃には、毎年のように新製品が開発され(GOシリーズは確かIIIまであった)、ドンズバブームの頃には各社競い合って“見過ごされていたあのスペック”探しに血道をあげてこれまた毎年のようにフェンダーギブソンのオールドギターの特徴が新発見され、オリジナルブランドの自社コピー時代にはまた年を追うごとに製品のグレードがあがり、反比例して値段は下がり、さらにはオリジナルブランドが分家筋のコストダウン商品を投入し始めたりして、常に活気を演出してきていた。
 ところがですよ。
 この数年は、少なくともオレにとっては、無風状態なんだね。


 オリジナルブランドによるコピーは一段落も二段落もついてしまって、これ以上掘り下げようがないレベルに達してしまった。国産は元気がない。この状況でいったい、どんなモードがあろうというのか……という状態。
 そりゃね、たとえばフジゲンは、材にこだわってタイムレスティンバー採用とか、徹底した精度の実現のためにサークルフレッティング開発とか、地味ながら実は革命的な商品開発やってるよ。でもブームを起こすほどじゃない。トーカイのSEB構造も個人的には革命的だと思うけど、主流にはなれていない。内容としてはどこも濃いことをやっているけれど、派手なブームはないわけ。無風なの。
 それはもちろん売り場にも現れていて、今の楽器屋の店頭は正直なとこもう5〜6年は同じような状態。刺激がないってこと。
 正直なとこ、ガッカリくんなわけ。


 なんかさ、バカみたいでもいいから、全メーカーが「それぇっ!!」とばかりにそっちへ走る、大きな祭が起きないかなあ。
 毎年のように……って頃は、毎日楽器屋へ行って飽きなかったんだけどねえ。
 今は半年に一度でいいや、ってレベル。つまんないよ。


 まあ一方で、トイガン方面には、恐ろしいまでのコダワリが追求されたモデルガンブームが到来してるんだけどね。
 だから最近、楽器屋の店頭チェックより、アメ横マルゴーの商品棚チェックの方が楽しい。え。だったらくだらん蘊蓄垂れ流してないでトイガンの話をしろ、って。そらそーだ、そうなんだけどね。
 手元超不如意で、新しいトイガン買えないんですぅ。あればっかりは買わなきゃダメなのよ。いろんな意味で。ああ悔しい。