かどいの『I'm in Rock!-Ⅱ』

ある文筆業者(分泌業者ではない)の生存証明。基本的に毎日更新。

#142

 オレが高校生の頃、オールド・ギター礼賛のブームがあったんだよ。今いうヴィンテージ・ギターっていうのとは、ちょっと違う感じでね。直訳すると「古いギター」ってことになるわけだが、そう、当時は単に古いギターだと認識されていたんだ。
 当時は、たとえば1958〜59年に生産されたギブソン社のレス・ポール・スタンダード・モデルとか、1954〜57年ぐらいの頃のフェンダー社のストラトキャスター・モデルとかが、オールドと認識されていた。そしてそれらのギターは、当時の現行モデルとは全然違うもの、素晴らしい音で鳴るものと認識されていた。
 で、当時はさ、いろんなことが言われたわけよ。現行モデルより明らかにオールドの方が音がいい、なぜだ? それはいい材料を使っていたせいだとか、ボディデザインがわずかに違うせいだとか、材料の使い方も違うとか、ついには経年変化で材料が変質したのだとか。まあ結論としては、どれもそこそこ当たりだったようなんだけれど、さすがに“経年変化”ばかりはハズレだったっぽいなあ。
 うちにね、1999年製のギブソンレス・ポール・スタンダードがあるの。生産からすでに14年めに入ったわけで、たとえば59年製レスポの14年めっていったら、レッド・ゼッペリンはもうアルバム『Houses of the Holy』を出してるんだよね。でもうちのレスポからは、あの音は出ないね。出す気もないけど。そのギターを手に入れたのはかれこれ6年ばかりは前だけれど、その時からあんまり音は変わってないと思う。
 結局、いいギターは最初っからいいギターなんだよ、多分。
 だいたいさ、たとえば1954年製ストラトがオールドだオールドだって言われていたのは、1970年代後期。'78年だとしても、製造から24年後の話。うちには、'54年ストラトをでき得る限りコピーしたってことになってるフェンダージャパン製、正確には日本のフジゲン製のST54-115ってギターがあるんだけど、これが俗にEシリアルっていわれるタイプで、そのシリアルナンバーからすると生産からもうおよそ30年近く経ってるんだよね(一番新しくても26年を経た計算になる)。計年変化で音が良くなるんだったら、もうバリバリにオールドギターの音になってるはずなんだが、やっぱ手に入れた時(25年ぐらい前)とあんまり変わってないんだな。最初からいい音だったし、その音は維持されてるのよ。そしてその音は、オールドとはまた微妙に違うの。
 まあなにがいいたいのかっていうと、特に張力の強い鉄の弦を張るようなギターの場合、計年変化で音が劣化することはあっても、よくなることはまずないんじゃないかってこと。あとついでに、自分が現役だった頃のギターが、立派なオールドとかヴィンテージになっちゃったことが微妙にせつないってことかな。