#279
本当の“いい話”というものは、誰も傷つけない。誰かを傷つけたり貶めたりしたあとで“いいエンディング”に至るような話は、一見いい話のように見えても、マイナスをつくることでプラスの余地をつくっているわけで、ゼロ点から見れば大したプラスにはなっていないものだ。下手をすればマイナスのままだったりもする(マイナス10がマイナス3になるのだって、一応7のプラスがついているわけだ)。ゼロ点から下がることなくプラスだけを生み出す話が本当の“いい話”であり、ひとの心は物理的な束縛からおよそ逃れているものだから(そこではエントロピーすら減少し得る)、わざわざマイナスを準備しなくてもプラスが生じる錬金術はごく普通に存在するのである。