かどいの『I'm in Rock!-Ⅱ』

ある文筆業者(分泌業者ではない)の生存証明。基本的に毎日更新。

難易度

 この語がもうずいぶん長いこと――おそらく何十年に渡って――気になっていて仕方がない。
『難易度』。

 辞書で調べると【難易の程度。難しいか、たやすいかの度合い。】とある(小学館/デジタル大辞林)。
 うん。別にこれは問題ない。
 問題はその使われ方だ。
 たいがいは「難易度が高い」という使われ方をする。
 だがしかし。
 それって難しいの? それとも易しいの?

 およそのひとは「そりゃー難しいに決まってんでしょうが」と言う。
 だが俺はそれ納得できないのよ。
 なぜ「難」が「高」だといいきれるわけ? 誰がそんなこと決めたわけ?
 一般的概念において「高」と「低」は、前者がよりはなはだしいもの、後者がさほどでもないもの、という意味合いで使われるよね。これは間違いないよね。
 一方、難易度という語においては、ベクトルは難と易、両方向にあるわけよ。辞書の説明だって、そういうことになってるでしょ?
 問題は、
『誰が難しいものを必ずはなはだしいものなのだと決めたんだ?』
 ここなわけ。

 ぶっちゃけ、「易」が重要なものだっていっぱいあるわけじゃん。
 家電なんてその最たるもので、取り扱いが簡単なほど歓迎される。
 俺だって、たとえばいちいち3D座標設定しなきゃ作動しない食器洗浄機なんか使いたくねえよ。洗浄槽内H72D85W25地点の皿を洗え、なんて入力ヤだよ。「油汚れ(高)/洗剤使用」スタート、でやりたい。いや、できれば機械が自動的に汚れの度合いをはかって洗剤を使うか水洗いだけにするか、時間は乾燥はと勝手に判断してビシッと決めてくれるのがいい。こっちがやるのは、食器を入れることとスイッチを入れること。いやいや食器を配置するのも機械にやってほしいぞ。汚れた食器をガラガラと入れるだけで整然と並べ洗う機械。いいじゃないかこれ。
 こういう場合、「易」の方が価値あるもの、はなはだしい方向へ向かうわけで、これを「難易度が高い」と表現してはいかんのですか。
「低い」と表現すると、なんか商品イメージが損なわれる気がする。「この機械の取り扱いの難易度は低いです」通らない気はしないが、「低い」ってのはやはりひっかかる。

 そう、要するに「高い」という判定にともなうプラスのイメージ、「低い」にともなうマイナスイメージが問題なわけよ。
 これがね、一方向の話だったら問題ないの。
 つまり「難度」にすればいい。
 難度が高い。これでいいじゃん。易もってくる必要ないじゃん。
 文字も一文字減るから、昔ならそれだけで印字(植字)のコストダウンにもなったぞ。今はあんまり関係ないけど、論文とかを和文タイプで提出した時代(昔はねえ和文タイプライターなんてものがあったんですよ)は一文字いくらで手数料を勘定したから、十回「難易度」の文字列が出てきたら「難度」にするだけで十文字分安くなっちゃうんだぞ。

 ところが。
 実は「難度」はどのIMEでも出てくるんだが、対義語になるだろう「易度」は出ないんだねえ。どころか、辞書にすら出てこない。
 要するに、一般的には「易度」という語は存在しない。俺も使ったことがない。
 だから、上記のような取り扱い易さをアピールしたい場合、難易度にせよ難度にせよ「低い」という表現を用いなければならないわけだ。
 まあね、「低い」が必ず悪いものだとは限りませんよ。「敷居が低い」とか「腰が低い」なんて表現もあるしね。でも「水は低きに流れる」とか「低レベル」とかの使われ方の方が多いよね。地面だってそこそこ高めの方がよしとされる。低い土地は水が出るから。
 だいたいさ、「難易度」って語は使いづらいでしょう。高さを以てよしとされる場合も、低さがよいという場合も、両方あるわけだから。
 その辺は難易度評価をされる対象を見て考えればいいということなんだろうが、それって尺度としては曖昧すぎる。測る対象によって1センチの長さが変わるなんてことはないでしょ? それじゃ尺度として役に立たない。それと同様、「難度といったら難しさの度合い、易度だったら手軽さの度合いとして、どちらも高いを以てよしとす」にした方が、ずっとスッキリするじゃんよ。
 そこまでゆかずともよい。単に「難度」に絞り、なにがどれだけ難しいか、だけを表現するのでもよい。実際、「難易度」が使われる場面では、易方面の話が出ることは少ない。難易度という語が使われるのは、およそ「やーこれマジでキツいっすよツラいっすよ」という内容の時だ。
 だったら「易」要らない。
「難度」でいいじゃないかよ。

 ……という具合に、「難易度」という語が気になってます。
 もはやキライの域に入っているといってもよいくらい。
 世の中の「難易度」は、八割以上「難度」でいーです。
 わざわざ「易」入れる意味がワカリマセン。
 その必要が認められません。

 それにしても。
 俺ってホントくっだらないことを気にして生きてるよなあ。
 今さらそんなこといっても仕方ないんだが、もっと鷹揚に生きてもよかったはずだよなあ。
 もっとも、鷹揚な人生が俺にとっておもしろかったかどうか、といわれると、ちょっと首ヒネっちゃうけどな。(結局くっだらないことが好きなんじゃん)