かどいの『I'm in Rock!-Ⅱ』

ある文筆業者(分泌業者ではない)の生存証明。基本的に毎日更新。

魔女・美弥 闇狩り【#1 女教師肛姦罠】-01

=====================================================
【注意!】
 この先の内容には
 性的・暴力的に過剰なものが含まれています。
 そういったものに興味や関心のない方、
 また未成年の方は閲覧をやめて、
 すぐに別のページへ移動してください。
 閲覧される方は自己責任において先へ進んでください。
=====================================================

(また、あの女がいる……)
 秋谷真琴は、目の前の男たちの肩越しにその女の姿を見つけた時、厭な寒けを背中に覚えた。
 彼らから十mほど離れた電柱に、その女は凭れかかるようにして立っている。そして女は、間違いなく真琴たちのいる方を見ているのだ。
 本来は、その女の姿に寒けを覚える余裕など、彼──真琴にはないはずだった。
 学校帰りの彼は、今、いかにも崩れた風体をした数人の若い男たちに囲まれていた。
 夕暮れ。すでに日はほとんど落ちている。
 高級、と分類される住宅街の中だった。ひとつひとつの家がそれなりに広い庭をもち、その庭は見通しの利かない塀で囲まれている。そういう家がいくつも連なった結果、路地は塀と塀の間に埋もれ、ほぼ完全に遮蔽された租界になっている。
 真琴は、その塀際に追い詰められていた。
 逃げ場は、ない。
 男たちの目的は、多分、真琴から金をせびり取ることだろう。
 本来なら、その状況の方に、真琴は怯えなければならなかったはずだ。
 けれども彼は、その状況よりも、彼らを少し離れた場所から見ている女に対して怯えを感じているのだった。
 あきや・まこと。女のような名前だと、これまでに何度笑われたか。いや、名前だけではない。真琴は、義務教育を終えて上の学校へ進んだ今も、身長はまだ百七十センチに届いていないし、色白でほっそりとした顔だちも少女めいている。
 とはいえ、名前のことでいじめられては反撃してきた過去のせいか、真琴にはかなり喧嘩っ早いところがあった。外見の印象とは裏腹に、腕っぷしも相当に強い。真琴は真琴なりに、荒事への対応に相応の自信をもっていた。
 もっともその自信が、しばしば彼をいらない揉め事に巻き込んできたのも確かだった。見ず知らずの相手に脅されたり、わけもなく絡まれたりするのだ。
 自信というものは、当人がよほど意識的に隠そうとしない限り、勝手に体外へにじみ出る。真琴のような一見ひ弱そうな少年が、その見た目に不釣り合いな太々しさを放っているのに気づくと、ある種の者たち──男女の別にかかわらず──は、どうしてもちょっかいを出したくなるものらしい。
 今日もまた、そうだった。
 見覚えのない相手に尾けられ、気がつくと挟み撃ちのようなかたちで、壁際にまで押し込まれていた。
 男たちは、見たところ二十歳前後だろうか。むしろ隙だらけに見える力の抜け方に、いかにもな“慣れ”があった。
 こういう時には下手に抵抗などしない方がいいことを、真琴は知っている。
 自分から差し出すことはないが、求められたら相応の金を渡す。一対一ならそれなりに意地も見せるが、複数の男が相手の勝ち目のない喧嘩に自分から飛び込むほど、彼は愚かではない。そう、男たちが慣れているように、真琴もまた、自分の勝ち目を計算できる程度に慣れている。
 それにしても。
 あの女が、真琴には気になっていた。
(いったい何者なんだよ、あいつ……)
 真琴は、男たちが浮かべる不愉快に軋れた笑顔よりも、無表情に立つ女の方に気を取られていた。
 最近──この数か月ばかり、妙によく見かける。
 特に、真琴がこの手の揉め事に巻き込まれている時には必ず、少し離れた場所からことの成り行きを眺めている。
 初めてあの女に気づいたのは、やはり今のように路上で絡まれた時だった。
 その時は二対一で、今の連中ほど慣れた雰囲気もなかったから、真琴は攻めることを選んだ。相手がよそ見した瞬間にひとりの鳩尾に力任せの一撃を押し込み、苦しげに身を曲げた相手の顔へおまけの膝蹴りを入れてやってから、走って逃げた。
 逃げる時、その女の前を通った。
 変だな、と思った。
 その位置に立っていたら、自分がどういう目に遭いかけていたか、そこからどうやって脱してきたかをすべて見ていたはずだった。そういう時たいがいの女は、驚いていたり怯えていたりといった表情を、顔だけでなく全身に浮かべているものだ。
 だが彼女は、淡々としていた。どんな感情も漂わせてはいなかった。
 それで印象に残ったのだ。
 年齢は、よくわからない。とりあえず真琴よりずっと上なのは間違いない。
 背は高からず低からず。どことなく今風ではない。少し野暮ったい服を着ている。だが、すらりとした体型がモデル並みに整っているだろうことは、その服越しにもわかる。
 長く、真っ直ぐな髪が腰の辺りまで伸びている。その色は、漆黒。最近流行りの脱色や染めは、まったくない。それがむしろ、彼女を目立たせている。
 そして、あの瞳だ。
 切れ長の目の奥に、吸い込まれそうに深い暗さを湛えた瞳がある。心の中がまるで読めない、言いようのない不安をそそる瞳だった。
 女はその後もしばしば真琴の視界に入った。
 それは登下校の道すがらの時もあったし、休日に遊びに出かけた先という時もあった。だが視界に入るだけで、特になにかを仕掛けてくることはなかった。
 ただ、荒事に近づきかけたり、あるいは本当に絡まれたりしている時には、例外なく彼女の姿があった。
(俺のこと、尾けてでもいるんだろうか。それとも偶然なんだろうか……)
 真琴は、女がいるというそのことに、男たちに囲まれていることよりも大きな圧迫感を受けていた。
「っからよお、聞いてんのかよオマエ」
 目の前の男が声を荒らげて、ようやく真琴はたった今の状況に気を戻した。
「え、ああ。悪い、聞いてなかった」
 少し高い、凛と張った声で真琴が答える。
 男は露骨に顔をしかめ、真琴の制服の襟首を掴んで持ち上げた。
「っからな、出すモン出せっつうの。ん? わかった? 出しなさい」
 無理に低く落とした声音で、男が言う。
「わかった。手を離してくれ、今、出す」
 真琴は相変わらず平然とした声で答えた。
 男たちに対して、恐れがないわけではない。
 だが、真琴が男たちを侮蔑している、その気持ちははっきりと口調に表れていた。
 真琴自身、言ってしまってから、
(しまった。やっちまった)
 と心の中で舌打ちをしていた。
「ふーん。ずいぶんエラそうな口、きくじゃん」
 襟首を掴む男の手に、いっそうの力が加わる。
(こりゃ、二、三発は食らうかな)
 持ち上げられた詰め襟で喉が絞まる。顔に血が溜まるのを感じながら、真琴は覚悟した。
 その時だ。
 ふたりを囲んでいる男たちが、目も口もなにかに驚いたようにぱかっと開くなり、酸欠の魚のようにぱくぱくと喘ぎ、次の瞬間にはだらしなくその場に倒れ込んだのだ。

(続く)