かどいの『I'm in Rock!-Ⅱ』

ある文筆業者(分泌業者ではない)の生存証明。基本的に毎日更新。

映画『ワイルド7』観てきた【④ アクションシーン】

 これはね、これはもうね、ここがね、まさに見どころです。
 素晴らしいですよ。絶品。



 まずバイクアクション。これはすごい。
 以前、映画『トゥームレイダー』で、アンジェリーナ・ジョリー(のスタントさんw)が、鮮やかなバイクアクションを見せてくれちゃいましたが(あれを見た時は「ぅおぅワイルド!」って思ったんだ自分はw)、あれはせいぜいひとりふたりの世界ですからね。こっちは7人いますからね。迫力の太さが違います。



 具体的に、どんなとこがすごいのか。
 たとえば、高速道路を疾走するワイルドの面々。その背中に注目してください。
 厚手のレザーでできたジャケットが、ぱんぱんに膨れ上がっています。
 これね、首もとの開いたジャケットを着てオートバイ飛ばすと、必ず起きる現象。よーするに首から入った風が抜け場を失って背中を膨らますのです。
 自分の経験上、あれだけ背中を膨らますには、最低でも時速60km以上、実際には80kmはスピード出す必要があります。つまり、正味すっ飛ばしているのです。
 たとえどんなにCGで飾っても、そういう部分のリアリティまでは、なかなか出せないだろうと思います。単純明快な説得力がある場面です。



 冒頭、お約束の銀行強盗退治では、敵が乱射する銃の弾丸を、オートバイでジグザグに走って避けながら接近、攻撃を仕掛けるという場面があります。
 これ、昔からよくあるシチュエーションですが、自分、毎度思ってたんですよ。「なんで当たらねえの? 見越し照準すればいいのに」って。
 見越し照準というのは、動く標的の動きを予測し、ここに来るだろうという場所に照準を合わせてテッポウ(矢でもいいんですがw)を撃つ、というもの。
 なにしろ昔からのジグザグ避けは、きれいに右へ左へ流れますからね。小学生でも“あ、次の瞬間にはここに来るな”ってのが読めるんです。そこを撃ちゃいいわけですね。
 ところが今回のは違いました。ジグザグのキレがすげえよくて、読めないのです。
 弾着エフェクトもイイ感じで(多分、後から当てたCGだと思うんですが……もしあれをライブでやってたら弾着さんスタントさん揃って神!!)、まさに紙一重で避けてゆく。見越し照準どころか、逆に、撃たれる側が撃つ側の意図を見越して走っている、という感じ。
 あのシーンだけでも、普通のアクション映画の山場ぐらいの価値があるかもです。



 終盤、敵陣へ飛び込んだオートバイの疾駆。ここはまさに圧巻でした。
 大型のオンロード車が跳ねるわ滑るわの大騒ぎ。デスクが並ぶオフィスを駆け抜けるオートバイ、飛び散る書類。画として決まってるのはもちろんですが、実際のところを考えると、これはすごいことなんです。塩ビを貼られた床って怖いんですよ。メチャクチャ滑るんですから。そこを、マジでテールスライドさせながら、大型オートバイがびゅんびゅん走ってゆく。両国の、じゃないやパイロウのサイドカーに至っては、サイドカー持ち上げてコーナー切ってる。スタントさんたちの力量の高さにびっくりです。



 おそらくCGを使ったのであろう場面も、活きていたと思います。
 冒頭、セブンレーラーに撥ね飛ばされた乗用車が宙を飛ぶ場面にはちょっと無理を感じましたが(今ひとつ車が重くなかった)、半ばで飛葉がユキをタンデムに乗せて暴走行為をやらかした時の、赤信号を突破して周囲に事故を撒き散らかす場面は、見事でした。(もしあの場面がCGじゃなかったらごめん)
 以前、どこのなんという映画か知りませんが、というのもそれを見たのがヨドバシAkibaのTV売り場で、TVの機能のプロモのために流されていた映像だったためタイトルを確かめることもできなかったからなんですが、とにかく洋画でして、その中でオートバイがふつーの交差点をフルバンクで駆け抜けてゆく、って場面があったわけです。それ見た時にも自分、「あっワイルドやってる」と思ったんですが(『地獄の神話』後半で、セブンレーラーからユキと八百が飛び出してゆく場面そっくりの印象だったんだ)、でも、すごい違和感を感じたんですね。
 その違和感がなにかは、すぐわかりました。周囲の車のリアクションが、なかったんです。
 ふつーね、人間だったらね、目の前になんか飛び出してきたら、反射的に何らかの行動を採りますよ。ブレーキ踏むとか、ハンドル切るとか。でも、そういうリアクションがなく、周囲の車がふつーに流れている中を、ただオートバイがギューンって走り去ってしまうの。それってナイよ。ありません。絶対ダメ。興ざめ。
 でもこの映画での周囲の車は、正しく反応して、がっちゃんがっちゃんになります。それをほったらかして走り去る飛葉とユキ。うん、これがワイルドだ。間違いない。



 それから、編集がすごくいい。
 スピーディに次々とカットが切り換えられて、映像が実にリズミックに構築されています。こういう撮り方って、従来の邦画にはあまりなかったんですよね。
 そう、従来の邦画って、見せすぎだったんですよ。
 ほーらこんなすごいことやってますよ、この場面を撮るのにはずいぶん手間がかかったんですよ、ね? ね? すごいでしょ? だからほら、たっぷりご覧ください……みたいな感じでね。長回しで延々と見せてくれちゃったりする。おかげで間延びした場面になる。
 古い邦画では、今回の映画のようなすごいスタントがあると、カメラは決まってロングで、オートバイが走る様子をワンカットで見せようとしたりするわけです。すると、どんなにすごいことをやっていても、肝心のオートバイはちっちゃいわけですよ。画面のサイズは変わらないんですから。
 だから迫力が出ないし、せっかくスタントさんがマジすごいテクニックを見せてくれていたとしても、なんだか平板になってしまう。
 これって、スタントさんにも失礼だと思いません?
 すごいことを本当に命懸けでやって見せてくれてるんですから、それを一番カッコよく撮って、一番カッコよく見せるのは、カメラさん監督さん編集さんの義務ですよ。掛け値なしのアクションだってことは、確かにロングの長回しの方が、ある意味“本当にやっていることの証明”になるわけですから、いいのかもしれません。でもそれって、見る側にはあんまりカッコよく見えません。
 この映画は、違います。
 鮮やかに繋がれるいくつものカットは、全体でひとつの凄味やスピード感を生み出し、躍動感あふれるアクションシーンを実現しているのです。



 もっと見たい、と思っているうちに切り上げてしまう“サービス精神”もあります。
 そう、もっと見たいという気持ちがなくなるぐらい、おなかいっぱいになるまで見せちゃうのは、サービス精神じゃないんですよ。満腹のあとにはげっぷしか出ません。食べすぎれば、しばらくはその料理を見たくもなくなっちゃう。でも、まだまだと思っているうちに切り上げられたら、むしろ今し方の味わいが口の中で反復され、ハッピー感は倍増するのですw その気分を味わわせてくれるものこそ、サービス精神。なんでもかんでも大量に並べりゃいいってもんじゃないのです。
 その辺の匙加減も、絶妙だったと思います。



 アクションは、もちろんオートバイだけじゃありません。
 銃を扱う、ガンアクションもあります。
 印象的だったのは、空港で、襲撃に失敗したユキを、飛葉が救出するところ。
 飛葉は片手でユキの襟首をつかみ、くるくるとユキを振り回しながら、要所要所でぴたっと動きをとめ、敵に弾丸を送り込みます。
 ここでの瑛太氏の拳銃さばきは見事。
 なにがって、あれだけ派手に動いているのに、銃口の向きに破綻がないのです。



 ただアクションをやるってことになると、だいたいあっちの方に銃が向いていればいいよね、ってものになっちゃって、銃口が下がっていたり(地面撃ってどーすんだよ)、手首がフラついていたり(そんなホールディングじゃ手首を傷めるよ)、まあみっともないことになっちゃうことがあります。
 でも、その場面での瑛太氏の銃は、ちゃんとなにかを狙っているのです。
 それは飛葉=瑛太氏の視線の演技にも負う部分が大。そう、その時の瑛太飛葉は、ちゃんと視線の先に狙うべきものをもっているのです。その視線の先に、確かにターゲットを感じるのです。そしてもちろんその視線と同じ方向を、銃口はきちんと向いているのでした。
 こうでなきゃ、タマは当たらないよ。



 冒頭の銀行強盗退治の場面では、瑛太氏ノースタントでオートバイ上からの射撃を見せてくれますが、これも地味によくできてました。ここでもちゃんと、的を狙っているのです。銃をわずかに左右に振る挙動、撃つ寸前にぴたっと銃を止める様子。これなら当たる、という説得力がありました。
 オートバイの上に立ち上がって両手で撃つ、飛葉撃ちじゃありませんでしたが、却ってそれがリアルでしたしね。



 オヤブン(というよりは親分)のパイソンの扱いが巧みだったことはすでに書きましたが、中井草波の拳銃の扱いも、これまた意外に巧みだったりします。さすが現役時代は抜き撃ちナントカと呼ばれた御方ナリ。
 ただ、ソックスのコマンダー、あの撃ち方は無理だわ。自分、実際に .45口径を撃った経験がありますが、かなり反動が重いです。ああいう撃ち方をするには、欧米人並みの筋力が必要なんじゃないかと思います。日本人が肩を地面につけてアレやったら、多分肘を傷めるよ。



 アクションとはいえませんが、物語の繋ぎの部分に、隠れ家で群れてるワイルドの面々という場面がしばしば入ります。その中で、各々銃の手入れをしていたり、長ドス磨いてたりするんですが、そういう場面もけっこうしっかり組み立てられていましたね。この辺はあるいは、親分の一番の見せ場かもしれません。