かどいの『I'm in Rock!-Ⅱ』

ある文筆業者(分泌業者ではない)の生存証明。基本的に毎日更新。

映画『ワイルド7』観てきた【⑤ プロップへのこだわり】

 アクションシーンに続き、ここもかなりの高得点です。
 プロップというのは、つまり小道具の類。ここでは特に、テッポウと衣装について述べる所存。



 まず衣装ですが。
 この辺、最近の映画って、上手になりましたよねえ。
 昔はけっこう間に合わせっぽいというか、いい加減なものが多かったような気がします。それはおそらく、制作予算の問題や、素材の問題――思った通りの出来ばえになる材料がない、といった――からくる、あきらめや妥協によるものだったのではないかと思います。作品によっては、制作現場の士気というか、監督のセンスというか、その辺が盛り上がっていなかったり明らかにズレていたりする作品もあったように思います。
 今回の映画はといえば、すべてがかなり高い水準で制作されていたと思います。



 でも実は、最初には「うーん……?」と思ったところが三点ほどあったんですね。映画を観る前のことですけど。
 まず、メンバーの制服が揃いではないところが気になりました。
 制服には大雑把に二種類があるようで、さらに着こなしによるのか、メンバーごとにかなり印象が違います。制服というものは統一感があってこそのものですから、これじゃあ制服といえないのでは? という疑問があったんです。
 が、実際に映画の中で見てみると、それがむしろいい味に。そういえば原作でも、後半にはしばしばそれぞれの着こなしが目立つようになってましたっけ。ヘボはヘルスエンジェルス風の古いヒッピー姿、オヤブンは下は制服でも上は甚兵衛風。飛葉だって、制服の前かっ広げて袖まくりあげたりしてたな。
 そういうバラバラさ加減は、そもそもに寄せ集めの集団であるワイルド7には、むしろふさわしい。映画を観ながら、だんだんそういう気分になってゆきました。
 バラバラな連中を半ば無理やりにワイルドというひとつの器に押し込め、そこからなにか一体感のあるもの生じてくるのがおもしろい……という解釈もあるわけですが(それが自分の基本的な解釈だったりします)、バラバラはバラバラのまま、けれど奥には繋がりがある……という解釈ももちろんアリなわけで、映画は後者の解釈だったのでしょう。そしてその解釈は、成功したのだと思います。



 もうひとつ気になっていたのは、上着がいわゆるライダージャケットの流れを汲むデザインになっていたこと。
 原作ワイルドの制服は、第二次世界大戦時の独軍将校の服を基本に、実際の白バイ警官の制服の要素を合わせたものになっていたと思います。つまり下は乗馬ズボン風のゆったりしたもの、上はボタンどめのダブル前革ジャケットにマフラー。
 ライダージャケットはダブル前ですが、ジッパーどめなんです。そこんとこが自分には、昔から気に入りませんでした。
 確かにジッパーの方が、オートバイ乗りには便利なんですよ。乗車時にはグローブを着用するのが基本ですから、ボタンじゃなにかと止めにくい。ジッパーなら、タブを大きくすればとても便利。でも、そこに制服という概念とは反するルーズさを感じてしまうのです。面倒でも、制服ならやはりボタンがいいなあ、という感じ。デザイン的にも、ジッパーよりカッコいいと思うし。(もっとも、009レベルにデカくなると問題ありますけどw)
 でも、これも結果的には、オーライでした。
 原作では、ワイルド7はそれなりに知られた存在であり(第一巻冒頭では、普通の制服警官がその存在におびえてたりしますし)、また警官としての正式な階級も与えられていて、通りすがりのひとでも一目で白バイ警官と理解できる者、という立ち位置にありました。だから、不良バイク族(w)めいたライダージャケット姿はナシだろう、と思っていたわけです。
 ですが映画でのワイルド7はとことん秘密の存在で、だから制服を白バイ警官に似せることには、デメリットしかないわけです。
 そういう条件があれば、ライダージャケットは機能性の点からも、また個人や団体の特定を防ぐという点からも(ライダージャケット、一時ほどではないにせよけっこう誰でも着てますからね)メリットがあります。ついでに、力強い印象もあります。
 設定をちゃんと意識したデザインだったわけですね。



 もう一点は、マフラーの色。
 ワイルドのマフラーの色を、自分は白だと思っています。徳間のOVAや、それを土台にした1/6アクションフィギュアでは黄色になっていましたが(原作マンガでも時々黄色い)、コントラストやイメージを考えると、やはり白がいいんじゃないかなあ、と。
 でも映画の色は赤、それも暗くて静脈血を思わせるような赤。これはちょっとどうかな、と思いました。実際、映画になっても、けっこう違和感がありました。黒革に赤、鮮やかな組み合わせのはずですが、赤の色調のおかげで全体にツブれた感じになってますし。
 まあそれは、趣味の問題でもあろうし、目をつぶることにしますw



 最初から「こりゃすごいや」と思ったのは、パンツのデザイン。
 前述の通り、原作では白の乗馬ズボンですが、映画ではシックスポケッツ風のデザイン。革製で、膝にはシャーリングも入ってたりします。色は黒。これも原作とは違いますが、ワイルドという組織の捉え方自体の違いから、目立つし汚れやすい白よりも、黒の方がいい選択でしょう。返り血の飛沫でまだらに赤く染まったパンツなんて、穿いて帰れませんしね。
 で、このパンツ、腿のポケット部分が、イイ感じに膨らんでいるんですよ。なのでシルエットは、原作の印象にむしろ近いんです。
 あれはきっと、その辺をしっかり意識して、わざわざ中に詰め物入れたに違いないw
 単なる実行部隊という印象の強い映画の設定にすれば、機能性が高いシックスポケッツ風のデザインはずばり正解でしょうし、それでいて原作ファンの印象も裏切らないシルエットとくれば、これは否定する方がおかしいってもんです
 素晴らしいセンスだったと思います。



 こうして概観してみると、今回のワイルドの制服、設定をよくよく詰めて確認した上でデザインされ、制作されたことがわかってきます。
 そういう情熱のようなもの、それが多分、多くのファンが制作者側に望む態度なのだと思います。そしてその期待は、裏切られなかったわけです。
 自分はこの制服が、かなり好きです。



 続いてテッポウ。
 これにもかなりのこだわりが反映していました。
 そりゃそうですね。ワイルドがテッポウにこだわらなかったら、全然ダメですからね。
 で、この映画。
 銃自体の扱い方、撮り方はもちろんですが、どのキャラにどんな銃を持たせるかという部分にも、強いこだわりを感じました。



 たとえばオヤブンには絶対にコルトパイソン。譲れない部分です。
 オヤブンの役柄の印象については前述した通りの感想を自分は抱いているんですが、それでもパイソンを握っていたことは、やはり嬉しく感じます。



 おもしろかったのは、B.B.Q.のワルサーPPKと、ヘボピーのIMIデザートイーグル
 ワルサーPPKは、小さめの中型拳銃です(ってワケわかんねえだろそれw)。007のかつての愛用銃。プロップベースには、マルシン工業製のモデルガンが使われていたようです。
 ワルサーPPKという拳銃は、威力はたいしたことないし装弾数も少ない、その割に反動は厳しく、なかなか扱いにくい銃といえます。そのジャジャ馬っぷりが、小柄で暴れん坊のB.B.Q.に妙ににあってるんですよ。おもしろい選択です。(ちなみに原作では草波の愛用銃)
 アジトでの場面でのB.B.Q.は、ワルサーP38もいじってました。どうやらB.B.Q.は、ワルサー社になんかもらっている、いや、なにか感じるものがあるようです。
 ヘボのデザートイーグルは、ちょっと通っぽい選択。しかもシルバーモデルを使用。
 これを見て思い出したのは、そういえばヘボピーが、原作中でオートマグという拳銃を握っていたことがあったな、ということでした。(『灰になるまで』だったかな確か)
 オートマグってのは悲運の拳銃で、メカ的にもデザイン的にもすごく先鋭的なところがあったんですが、種々の事情により売れず、結果的に歴史の一ページになってしまった銃なんです。
 オートマグがフェイドアウトしたあとで、まったく違う構造を備え、銃としての完成度をものすごく高めたマグナムオートとして、デザートイーグルが登場。以後、マグナムオートといえばデザートイーグル、ということになりました。
 今回ヘボにデザートイーグル、それも銀色のものを持たせたのは、オートマグの今日的解釈、あるいはオートマグを握った原作のヘボに対するオマージュ的なものなんじゃないかなあと思っています。(オートマグは総ステンレス製で、当時には珍しく銀色ぴかぴかの銃だったのです)



 パイロウのベレッタ、ソックスのコルトは、まあ無難な線ですかね。
 セカイも確かコルトですが、まあやはりモーゼルというわけにはいかんのでしょうw もっとも、そういう点でも「マンガの世界とは違うから」というアピールをしていた、と捉えれば、むしろモーゼルでなくてよかったのかもしれません。



 そして。
 飛葉ですよ。
 飛葉。ウッヅマン! やってくれたよ!! 感激ですよ!!!!



 もちろん、生産が終了してから三十年以上が経ってる拳銃ですから、そのままウッヅマンが出てきても、今さら感はぬぐえません。ワイルドという組織のあり方を、これだけアップデートしたわけですから、むしろそんな古い拳銃を持たせることには、こだわりが滑って滑稽になりかねない部分もあったでしょう。
 でも、ちゃんとウッヅマンを、飛葉に握らせてくれたんですよ!
 これを喜ばずして、なにを喜ぼうか。



 ベースはMGCのモデルガン。よくまあ未だに残っていたなあw 
 知る限り、他にウッヅマンがプロップで使われたのは、松田優作の『野獣死すべし』ぐらい。ベレッタM92Fとかコルトガバ系だったらベースにするトイガンにも不自由はないでしょうが、需要の少ないウッヅマンでは、ベースの確保自体、大変だったんじゃないかなあ。今ではMGCもなくなっちゃってますからね。



 もっとも、けっこう大胆に手が加えられていて、オリジナルとはかけ離れた、遠目には同じウッヅマンでもマッチターゲットに似たような姿になっちゃってはいます。
 でもそれはそれでよし。マンガ『新』でも、姿が変わっていたんだし。
 カスタム点は数点。左右どちらの手で握ってもいいようにという配慮によるのでしょう、グリップのサムレストはなかったようです。バレルはふた回りほど太いブルバレルに。バレル上には(おそらく)ピカティニー規格のスリットが切られたトップリブが載り、それはそのままスライドエンド部まで伸びていて、スライドをフレームとともに挟み込むようなデザインになっています。この辺はウッヅマンというよりブローニングのターゲットピストルに近いかな。
 そうそう、リアサイトの地味な加工も忘れちゃいけません。MGCのモデルガンでは、設計上、スライド内のパーツを止めるために不可欠のパーツになっていたリアサイト。でも、そのままではトップリブと干渉してしまいます。なので、わざわざスライド上面のアールに合わせたパーツを制作し、はめ込んでありました。それで外しちゃったリアサイトは、ちゃんとトップリブに載せられ、再利用されてるw
 これ、簡単きせかえキットとか作れますね。どっか出すかな? ジークとか。もしかして、もう出てたりして。自分でもやれそうだw
 とにもかくにも、ウッヅマンベースであるというだけでも自分は感涙。プロップ誰作ったんだろう、やっぱり旭工房さんだろうか。旭公房のどなたかが趣味で作った「コンバット・ターゲット」ウッヅマンの発展形みたいに見えるんだよな。



 他、MP5K、M4カービンといった定番長物や、まさかのTMP(ベースは間違いなくKSC)も登場。機動隊の面々がずらりとベレッタを携えているシーンは圧倒的です。オヤブンが担いでいたグレネードランチャーは、Vシネで故又野誠治氏が使ってたやつだろうか。ヘボがもってたバズーカもよくできてました。まあBIGSHOTの仕事なんだから、問題はまったくありません。
 そういえば、敵陣に突っ込んで最初、ヘボがM4かなにかを乱射した時の弾着なんですが、弾痕が異様にデカかったように思います(その辺はもう血がたぎりまくっていたので、記憶がわりとあやふやw)。あれはきっと、原作の表現へのオマージュなんでしょうね。そういうところでは監督、原作を大事にしてくれてる気がするなあ。