かどいの『I'm in Rock!-Ⅱ』

ある文筆業者(分泌業者ではない)の生存証明。基本的に毎日更新。

まんが・マンガ・漫画・manga……

 未だにまんがは「マンガ」と表記すべきなのか「漫画」の方がいいのか、はたまた安易に英語に転んで「コミック」とした方が無難なのか、毎度のように悩みます。
 自分の中では「マンガ」ですけど。

 実は自分には、色濃くマンガはクダラナイという見解の影響が残ってるんですよ。
 こどもの頃からマンガ読んでて大好きで、今なお大好きなんですが、でもこどもの頃からずーっと「そんなくだらないもの!」という見解を見聞きしてきたもので。
 いや、幸いにして両親は、特にそういうことは言いませんでした。むしろ、すごく理解のある親だったと思います。
 最初に定期購読したマンガ雑誌は、講談社の『ぼくらマガジン』ってものだったんですが、これ、今改めて見ても(はいそうです、今も40年前の現物が数冊あります)「これすげえなあ、エロだしグロだし」って内容なんですね。で、買うのは基本、母の役目で(というのも自分、こどもの頃はもうなんというかお金もたせれば落とす必ず落とす三歩歩いたらもう落とす握りしめていたはずが次の瞬間にはもう失せているという、手品師並みの超抜け作だったんで、なかなかお金を持たせてもらえなかったのです)、そしたらある時、本屋が母に言ったといいます。
「あんたねぇ、これ今、世間では、エロでグロでひどいマンガ本だって言われてるよ。こんなのこどもに買って見せたらダメだ。売りたくない
 すると母はこう答えたというのでした。
「それは、読むこども自身が判断すればいいことです。親としては、読みたいと思うものを与えることが基本です。だから売りなさい寄越しなさい

 やー、顧客に「買うなよ」と言う本屋もなかなか骨があって好きですが、我が母ながらこの解答は素晴らしい。その結果が自分だと思うと、なんか申し訳ない。不肖がすぎて情けない。かあさん、ごめんね。ほんとうにごめんね。

 まあともあれ、とにかく両親はマンガに対して寛容でしたが、社会はそうではありませんでした。学校でも隣近所でも新聞なんぞでも、マンガはくだらないもの、という評価が大勢を占めていて、そしてそういう論調でマンガが取り沙汰される時の表記は、決まって「マンガ」だったんです。
 だもんだから、「マンガ」表記には、マンガに対する悪意を感じてしまうんですね。

 でも、じゃあ「漫画」と表記すればいいのかというと、これは明らかに違います。だいたい、漫画って表記自体どうかと思います。だいたいが「漫(みだ)りに画く」とか「漫(すず)ろな画」とか、そういう意味でしょうからね。つまり、てきとーにやたらと描いてみたとか、とりたてて価値もない絵とか、字義通りならそういう意味。それは自分の好きなマンガとは違います。
 comic あるいは cartoon に対して漫画の訳語を与えたのって、いったい誰なんだ。それ自体なんだかひどく差別的だぞ。

 じゃあコミックかといえば、これもどうも坐りが悪い。だってね、自分が好きで読むのは、この日本で洗練され育まれた表現手段による作品なのであってね。輸入品ではないの。だから日本語で表現したい。(従って、manga などとローマ字表記するってのもアウト)

 ……とかなんとか毎度逡巡して、結果的にはその時の論調(自分がどういうスタンスでその作品について書きたいか、あるいは媒体になにを求められているかなどにより決定)によって、マンガだったりまんがだったり漫画だったりコミックだったりと使い分けてきたわけですが、どうしても坐りが悪いのは変わりません。だってね、自分の中では、マンガというものの位置は確定していて、呼び分ける必要なんてないものなんだもの。

 まあとにかく。
 ああいう感じの表現手段による作品の呼称について、自分はホント困っとるんですよ。
 なんかもうね、その呼称ひとつで、その表現手段に対するスタンスが見透かされてしまうような気がしてしまいましてね。自分の意志が、マンガとか漫画とか書いた時点で誤解されてしまうような気がしてね。違うんだ、そーじゃないんだ……と、たかが二、三文字を書くたびに煩悶懊悩呻吟痙攣してしまう。もう、いつまで経っても本論に入れなくなってしまう。
 困った困った。

 ……という状態から抜け出すために、ここではもう最初っから定義しちゃいたいなあ、と思ってるわけです。
 自分はそれを、マンガと呼びます。書きます。が、そこにマンガという形式への蔑視あるいは過度の称賛などの態度は混ざりません。塩を塩と呼ぶように、空を空と呼ぶように、それはもうホントに単なる呼称に過ぎません。マンガはマンガです。それだけです。
 というわけで、以後、ここでマンガという表記が現れても、その語自体から自分のマンガへのスタンスをはかるようなことはしないでくださいね……って、まあ、そんな読み方する人間はごく少ないのはわかってるんですけどね。まず第一に、自分がそういう読み方をしちゃうということを、どーにかしたかったんです。それだけ。