かどいの『I'm in Rock!-Ⅱ』

ある文筆業者(分泌業者ではない)の生存証明。基本的に毎日更新。

ポリスとカーズ

「あたしさぁ、ポリス(THE POLICE)が好きなんだよね」
「へえ、そうなんだ。俺もポリス好き。てゆうか大好きかも」
「あとね、カーズ(THE CARS)も好きなのね」
「まじ? 俺もカーズ大好き。いいよねえ」
「ねー。あの無機的な感じ、生々しさを切り捨てた感じがねー」
 ほぇ?
 ポリスとカーズが生々しさを切り捨てている、だって!?

 いったいなぜそーなるのだ。ポリスとカーズのいいところは、生身のスリリングな部分じゃあないか。
 無機的な音が流行りつつあった当時に、シンセサイザーエフェクターの類の無表情な音を大胆に採りいれながら、なお生身の緊張感を失わなかった、いや、それら無機的な音を絶妙に配置して逆に生身ならではの息遣いのようなものを際立たせたところこそ、彼らの魅力なんではないかね。
 いっとくが俺は当時の現役。過去遡って聴いたりしたわけじゃないぞ。当然、何かの資料の口真似をしてるわけでもない。

 ポリスはいうまでもなく、スティングが歌うイギリスの三人組。1970年代終期ぐらいの頃、レゲエブームを背景にぐぐっと頭角をあらわしたグループだ。
 カーズはポリスとほぼ同時期に、シンセサイザーを大胆に採り込んだロックンロールを提示し、'80年代半ばには大成功に至ったアメリカのグループ。
'70年代の終わりから '80年代半ば頃までは、ニューウェーブの時代ともいわれている。電子楽器の類の隆盛とともに、直前までのローテクな生音楽、ハードロックが飽きられて、みんなして一転無機的な音への暴走が始まった頃だ。もちろん俺は力いっぱい逆らっていたが。

 なにしろ当時の脱ハードロック・ムーブメントはすごかった。細野晴臣が、はっぴいえんどのイメージをかなぐりすてて刈り上げのテクノカットに転じ、YMOでぶいぶいいわせたりしたのは象徴的だ。ストーンズ風R&Rとか、パープル/ゼップ的HRとか、そういうのがどんどんイモな音楽にされた。
 一方で、生々しさ、というよりは破壊的な衝動へのベクトルもあって、それがローテクの極みともいえるパンクロックに進み、これはこれで同時代のひとつの象徴になっている。本当かどうかは知らないが、あの宅八郎氏は当時、タータンチェックを小粋にあしらった2トーンのロンドンパンク姿で秋葉原辺りを闊歩していたらしい。
 こういう物言いはあんまり好きじゃないが、当時の状況を一言で括るなら、インテリジェンスをエモーショナルな手法で具体化するというハードロックの逆説的な手法が限界に達し、同じインテリジェンスをクールなフィロソフィで実現しようとしたのがテクノで、それに対する反動としてインテリジェンスの徹底否定に向かったのがパンクってことになるのだろう。

 さらには、ひたすらにソフィスティケイションを目指したクロスオーバー/フュージョン方面、映画「サタデーナイト・フィーバー」以来定番になったダンスミュージック系の原点回帰ともいえそうなソウル/ブラックコンテンポラリーのリズム系なんかもヒットしたりして、つまりメチャクチャな状況ではあった。とりあえず自分でも演奏する小僧たちには、ポリスやクラッシュがウケていた。なぜならテクノ系は金がかかりすぎて(当時のシンセはそれはもう高価だったのだ)おいそれとは手が出せなかったからだ。

 いずれにせよ、そういう中でポリスやカーズが独自の光を放っていたのは、デジタルな楽器を使いつつも(っつっても当時のシンセってまだアナログシンセなんだけどね)人間が演奏しているということ、その生身のスリルを失わなかったことによる部分が大きいんだよね。
 ポリスのドラマー、スチュワート・コープランドのめいっぱいテンション高いリズムワークや、カーズのギタリスト、エリオット・イーストンのクールだが実はすごくオーソドックスな(そして隅々まで注意の行き届いた)プレイスタイル、双方のメインボーカル(スティングとリック・オケイセック)の、生身以外のなにものでもない色気は、彼らの音楽を、他のテクノ系とは一線を画すものに仕立てていた。
 もちろんそれは、テクなし&感情剥き出しを売り物にするパンクの、校内暴力中学生的ハクチさとも全然違う、正統派の貫禄も備えていた。
 歌詞だっていいんだぞ。ポリスなら「MASSAGE IN THE BOTTLE」とか、カーズなら「DRIVE」(もっともこの曲、リックのボーカルじゃないが)なんてのは、切なさ大爆発だ。特に「DRIVE」の方は、成田美名子の「CIPHER」で、重要な場面のBGMに指定されたぐらいの名曲だったりする。
 本当に生身を排除したものがどうなるかは、たとえばゲイリー・ニューマンのテクノとかを聴けばわかる。あんなの全然つまらん。

「どうしたの? 黙り込んじゃってさ」
「……いや、なんでもない。つうか、人間って不思議だよねえ。それにしても今日はよく晴れて、空の青がきれいだよね」
「ほんとねぇ、きれいねえ」
 でも俺の見てる青とあなたの見てる青は違うんだぜ、きっと。


(2002/5/20)