かどいの『I'm in Rock!-Ⅱ』

ある文筆業者(分泌業者ではない)の生存証明。基本的に毎日更新。

魔少女・由衣 闇狩り【#1】誕生−04

(承前)

 白いものが、蠢いていた。
 それは、間違いなく全裸の女だった。
 全裸の女が、何かの上に腰掛けて、こちらを向いている。少し前に傾いだ姿勢で首を俯け、重たげにぶらさがった大きな乳房を、ゆっくりと揺らしている。
「あは……んっ……」
 女が、さらに少し前に体を倒した時、女の向こうにあるものが見えた。
「う、嘘っ……!?」
 小さな悲鳴が、由衣の喉から漏れた。
 女の向こうに見えたのは、高崎の顔だった。しかもその顔は、普段の爽やかさや凛々しさをまったく失い、だらしなく惚けて、あらぬ方向を眺めている。
 女は、彼の腰の上に座っていた。
 高崎の手は、女の腰を自分の腰の上に支えて、微妙に動いている。その手が女の腰を操り、ゆっくりとそれに、すりつぶすような回転運動を与えているのだった。
「あら……来た、の、ね……」
 女が言った。そして、ぐい、と上体を起こして、由衣と真っ直ぐに視線を合わせた。
「舞唯!!」
 全裸で高崎に乗っているのは、親友の舞唯だったのだ。
 由衣は、自分が見たものが信じられず、大きな目をさらに大きく見開いて、光景を凝視した。
 その由衣の視線を充分に意識しながら、舞唯がさらに体を起こす。
「ちょっと……暗い、でしょ? よく見えないわよね。……これでどうかしら」
 舞唯は、片手を上げて、何かを捻るような仕種をした。と、室内の蛍光灯が、ぱしぱしっとまたたいた後で、全部、点灯した。
 隅々まで見えるほどに光が溢れた。
 椅子の上に、ズボンを下ろした高崎が座っている。その腰の上に、全裸の舞唯がまたがっている。明らかに二人は、番い合っていた。
 由衣は、ぶるぶると震えながら、声を出すことも逃げることもできず、二人を見つめていた。
「どう? あなたのために、準備しておいてあげたわよ。これで、いつでもOKって感じね。
 あ、うっ……い、意外だったわ、高崎先輩って、ずいぶん立派なの。こんな恰好でも、奥まで届いて……すっごく、イイのよ……当たるの、ちゃんと」
 舞唯が、由衣を見て言った。そして背を反らせて高崎の胸に身を預け、両手を前へ伸ばして、自分の性器に当てた。
 舞唯の両手の指が彼女自身の性器を割り開き、彼女と高崎の繋がっている部分を、灯の下に羞じらいもなく曝け出す。
「ね……? 見える、でしょう? こんなに……すごいの。由衣、良かったわね……」
 由衣には、何がなんだかわからなかった。今、舞唯に見せられたものは何なのか。このふたりはいったい、何をしているのか。なぜ舞唯がここにいるのか、いや、なぜ自分がここにいるかさえ、わからなくなっていた。
「どうしたの? 由衣。こっちに来なさいよ。……あなた、こんなことがしたかったんでしょう? 高崎先輩と、こういうことをする関係になりたかったんでしょう?」
 言いながら舞唯が、ゆっくりと全身を動かし始めた。
 上半身が前後左右にくねって揺れる。そのたびにカールのかかった長い髪も揺れて、ぱさ、ぱさと軽い音を立てる。それとともに室内に、くちゅくちゅと淫らがましい粘った音と舞唯の湿った息の音が響き、あの異臭──生々しく濃密な匂いが、満ちていく。
「くぅ……ねえ、見てよ、見て。見えるでしょう? すごいの、あたし……本気で感じちゃってる。高崎先輩って、タイプじゃなかったけど……こうしてると、何だか、すっごく素敵な人に思えてきちゃう」
「あ……」
 由衣は、ようやくかすれた声を喉から絞り出した。同時に、涙が溢れ出た。
「違うっ。そんな……やめてよぉ、そんなコト……お願い、やめて!! 先輩も舞唯も、そんなコトする人じゃないっ。違うっ!!」
「違う?……何が、よ。あなた、小学生じゃあるまいし。それが、彼氏と彼女って関係になるって……こういうことを、したいからじゃないの?」
 馬鹿にしたような口調で、舞唯が言った。
 と、舞唯の背後から手が伸びてきて、彼女の豊かな乳房を握りしめた。
 高崎の手だった。
 握りしめたとはいえ、豊かな舞唯の乳房は指の隙間からかなりこぼれ出ていた。高崎の指が舞唯の乳房にめり込むさまは、彼が舞唯の乳房を握ったというよりも、むしろ、舞唯の乳房が、高崎の指を吸い込もうとしているように見えた。
 息を飲む由衣の目前で高崎は、一人前のおとなの手つきで、舞唯の乳房を弄び始めた。
 指を食い込ませ、揉む。時折、尖り出て天に向いた乳首を、指先で転がす。その行為は、高崎が本当に舞唯との番い合いを楽しんでいることを、はっきりと示していた。
「……ね? 彼だって、充分に楽しんでるのよ。これが、正しい男女交際なの。
 やっぱり、あたしが準備してあげて、よかったみたいね。奥手なあなたじゃ、彼をすぐには満足させてあげられなかったに違いないんだから」
 言いながら舞唯は、片腕を大きく持ち上げて体をひねり、高崎の頭を撫でた。高崎は、それに応えて、首を前に突き出した。
 高崎は、虚ろな目をしたまま、舞唯の腕の下に頭をくぐらせ、舞唯に頸を抱えられる恰好になった。その恰好のまま、高崎は首をひねった。そして、大きく口を開くなり、噛みつくような勢いで、目の前で揺れる舞唯の乳房に唇をつけた。
「んっ……んっ……んっ……」
 喉を鳴らしながら、高崎は、舞唯の乳首を吸い始めた。時折唇を離しては、舌先で乳房全体を舐め廻す。その無心な仕種が、由衣にはひどく浅ましいものに見えた。
「ほら、ね。彼も、こういうことが大好きなのよ。これが男女の交際ってものなのよ」
 由衣の頭の中は、本当に真っ白になっていた。目の前の景色には、なんの翳りも曖昧さもない。はっきりと、細部までが目に飛び込んでくる。それがむしろ嘘くさく、これが現実の光景ではないように思えていた。
 その時、高崎が、初めて言葉を発した。
「天宮……くん、由衣。由衣! どうだ、君も一緒にしないか? 君の友達……舞唯くんも素晴らしいけれど……僕は、君も味わいたいんだ。いや、どうせなら、三人で一緒に楽しもうじゃないか。な? いいだろう? 君だって、僕とこうしたいんだろう?」
 舞唯は、ちらり、と由衣を窺っただけで、相変わらずゆっくりと、けれども着実に体を揺らし蠢かせている。片手はいつの間にか、自身の乳房を掴んで揉みしだいていた。
 高崎が再び、抑揚のない、奇妙に澄んだ声で言う。
「さあ、制服を脱いでこっちに来いよ。大丈夫、他の生徒たちは、サッカーの試合に夢中だ。先生たちもね。誰も、こんな所まで来やしないさ。だから……さあ!! こっちへ来て、僕たちと……」
「嫌ですっ!!」
 由衣は叫んだ。
「私……私、そんなコトがしたかったわけじゃ、ないっ。こんな、こんなひどいこと、こんないやらしいこと、したかったんじゃありませんっ。
 ただ、先輩と一緒にどこかへ出掛けたり、ちょっと腕組んで歩いたり、そして、いつかは……。そういうお付き合い、したかっただけなんですっ!!」
「嘘ついちゃ、ダメよ」
 舞唯が真っ直ぐに由衣を見据えて言った。
「腕、組むのも、出掛けるのも、結局はココに行き着くための段取りなのよ。あなたも、本当はこうしたいんだわ。気取ってちゃ、ダメ。……もうガキじゃないんだから」
 舞唯が立ち上がった。舞唯の胎内から抜け出た高崎が、その拍子に、ぶるんと揺れた。絡みついていた半ば白濁した粘液が飛び、その飛沫の一滴が、由衣の頬に張りついた。
 舞唯は、床に四つん這いになった。高崎は椅子から降り、舞唯の背後で膝立ちになる。
「こういうことをして、初めて恋人同士って言えるのよ。わかる? 由衣」
 舞唯は言いながら、肘を曲げて背を反らし、尻を高く掲げた。高崎が舞唯の尻に自身の腰をすり寄せながら、再び由衣を見て、言った。
「さあ由衣。君も早く、こっちに来いよ。たっぷりと……舞唯くん以上に、この僕が、可愛がってやるから」
 高崎が言った。その高崎は、もう、由衣が知っている高崎ではなかった。血走った目も、半開きの唇も、見知らぬ男のようでしかなかった。
 由衣は、ぶんぶんと横に頭を振った。
「違うっ。こんなんじゃ……こんなんじゃ、ないぃっ。私、私……!!」
 由衣は、部室から駆け出ていた。
 背後に、高崎と舞唯の笑う声が聞こえた。
 由衣はそのまま校内履きを履きかえもせず、校門から飛びだしていった。
 校門を抜けた刹那、後ろから、どよめく声が聞こえた。それは、キックオフ後わずか数分で先制点をあげた直樹に、試合を見ていた生徒たちが与えた称賛の歓声だった。
 そのどよめきは、由衣の頭の中で高崎と舞唯の声と混ざり合い、まるで全校生徒から投げつけられた嘲笑のように響いた。由衣は泣きながら、ただ家に向かって走っていた。

(続く)